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81.不幸は突然に6
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切れたときは気付かないくらいだった。
それだけ、すっぱり綺麗に切れたのだ。
血がダラダラ垂れて、隣で作業していた会長の声で気が付いた。
廃品回収現場は流血の大騒ぎ。
すぐに会長の車に乗せられて近くの整形外科に連れて行かれた。
出血は止まらず、もらったタオルは真っ赤になる。
なんだか見ている自分のほうが、気が遠くなってしまった。
傷は7センチにわたっており、すぐに縫合された。
現在は縫合と包帯で出血は治まっているが……。
ヴァイオリンを手に持ってみるが、電気が走ったような痛みに思わず手を離す。
楽器が音を立てて床に落ちた。
「ッ……」
痛みは半端ない。
握ることすらままならないのに。
弾くなんて行為は到底無理な気がした。
「どうすんだよ……これ」
プロだから。
なんて言ってはみたものの、痛みと言うのは耐え難い苦痛の一つだ。
だけど、このままでは埒が明かない。
なんとかもう一度チャレンジ。
楽器を握り、そして肩にゆっくり置いてみる。
ゆっくりならなんとか。
ほっと一息置いて、それから右手で持った弓をあてがう。
少しの重みが掛かっただけで痛みが酷くなる。
更に、音を出そうとして、弓を引くと、その衝撃で更に痛みが強くなった。
「痛」
大きく息を吐いて天井を仰ぐ。
まともに弾けるのか?
このままで。
がっかりする。
しかし。
こんなことでくたばってられない。
自分はプロになったのだ。
死ぬ気でやらないと。
圭は覚悟を決めて練習を始める。
痛みとの戦いは思った以上に過酷なものだった。
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