アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
81.不幸は突然に7
-
時計の針は6時を示す。
そろそろ蒼が帰ってくる頃だった。
高塚はおろおろしても仕方がないと、なんとかいい方法がないか考えながら時間を過ごしていた。
しかし、どうしてもなにも浮かばないのだ。
痺れを切らし、彼は圭の様子を見に行くことにする。
防音室。
練習するときには快適だが、日常生活を営む上では結構面倒な機能である。
携帯は通じない。
ノックしても聞こえない。
彼に連絡をする時は自宅内でひっぱってある内線電話を利用する形になる。
だけど、練習中だと思うと、おいそれと連絡できるわけもなく……。
ロックされているとは知っているものの、ともかく防音室の前にやってくる。
「圭くん」
大丈夫だろうか?
あんな状態で練習なんて……。
そう思いつつ、そっと扉に手を掛ける。
すると、今日は珍しくロックされていないようだった。
彼も怪我のことがあって動転しているのかも知れない。
高塚はそっと扉を開ける。
「圭くん?大丈夫……?」
中からヴァイオリンの音は止んでいた。
代わりに視界に入ってきたのは真っ赤な血だった。
「ちょ、圭くん!?」
慌てて駆けよる。
圭は床に座り込んで、左腕を押さえていた。
「高塚」
「なに?ちょっと。傷が開いてるんじゃないの?これ!」
「平気だ。なんとか弾けることは弾けるみたいだ。だけど、血が出ちゃって」
「血が出ちゃってじゃないでしょう!?」
もう半分泣きそうだ。
なんでこんなことになったのか。
処理しきれないから混乱している様子だ。
そんな様子を黙って見ていた圭。
なんだか、自分はすごく高塚に迷惑をかけているんだな、と。
今更ながら気が付いた。
「ごめん」
「ごめんじゃないでしょう?どうするの!すぐに病院に行って、また診てもらわないと……」
真っ赤に染まり、用を足さない包帯。
高塚は慌てて出て行くと、タオルを数枚持ってくる。
そして傷口にあてがった。
「蒼ちゃんが帰ってくる前に病院に行こう。見られたくないんでしょう?」
「そうだな」
高塚でこれだ。
蒼が知ったらとんだ騒ぎだ。
圭は大きく頷いて、高塚と練習室を後にした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
618 / 869