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83.ガラコンサート3
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本日の予定を確認し終えた高塚は、メモを見ながら客席に座る。
ステージではオーケストラとショルが練習をしているところだった。
重厚な響きに、ついうとうとする。
昨日はショルやレオーネたちを連れて居酒屋めぐりをさせられた。
圭はどうした、連れて来いと散々責められたものの、なんとかかわしてきた。
精神的にも疲れたし、体力的にも限界に来ているのかもしれない。
音の嵐に、気持ちよく眠りかけた瞬間。
ふと静寂になる。
あれ?
まだ続きが……。
そう思って顔を上げると、ショルは手を大きく振ってオーケストラを止めた。
『圭は!?オケだけでやったって埒があかないじゃないか!アレン!圭は?』
最前列でリハーサルの様子を見ていた赤毛の男は気難しそうに顔をしかめる。
『今はこの時間なんです。圭とのリハは午後からになっています』
『でも!主役抜きで音楽を作れと言うのか?』
『オケだけでの組み立ても必要です!誰のせいで練習が遅れていると思っているんです?勝手に抜け出して……』
ショルのマネージャーのアレンは随分苛立っている様子だ。
今回、スケジュールをすっぽかして日本で遊んでいたいのは事実だ。
オケ団員たちは苦笑している。
それを見て、ショルは面白くない顔をした。
『お前に指図されてたまるか!圭がこないならリハは中断!』
ショルは駄々っ子のようにステージを降りると、高塚のところにやってくる。
『いいだろう?圭を呼んでくれ』
「え?」
困ったものだ。
圭も遅れているのだから。
本当だったら、昨日には東野とあわせをする予定だったのに。
休息も必要であるとのことで、当日合わせに変更していたのだ。
だから、この時間は貴重なのである。
まあ、演奏する曲目は、以前のリサイタルで扱ったものなので、最終確認だけ出来れば問題はないが……。
なにせ、圭の状態が以前とは明らかに違うのだ。
その辺りを東野にも理解してもらわないと。
そうすると、やはり時間は欲しいものだ。
いつもは「はいはい」と御用聞きみたいになっている高塚だけど。
圭の権利は守らなければならない。
『あの!無理です!』
勇気を出して意向を伝えようとした高塚は、焦って単刀直入に言ってしまった。
『は?』
ショルは、いつも大人しい高塚が突然、そんなことを言うものだからびっくりしてしまう。
『大事な練習時間なんです!午後からにしてください!圭がいなくて練習が出来ないのだったら、午前中はこれで終わりにしてください!』
狐につままれた顔をしているショルを見て、アレンは爆笑する。
『残念でしたね。ショル。諦めてください。今回はあなたが主役ではないのですから。少しは自重してくださいね』
ぴしゃりと言い渡されてショルはしょんぼりだ。
『分かった。練習はお昼を食べてからにしよう』
とぼとぼとホールを出て行く彼を見送って大変なことをしてしまったのではないか?と高塚はおろおろする。
しかし、アレンはにこやかにやってきた。
「さすがは圭のマネージャー。この調子でショルを厳しくしつけてもらいたいね」
彼は日本語が上手だ。
高塚は冷や汗をかきながら笑う。
「すみません。出すぎた真似を」
「マネージャーとは、その人が快適に音楽を作れるように調整するものだよ。キミのやったことは間違っていない。大丈夫」
「ありがとうございます」
気が抜けたらほっとした。
椅子に座り込んで、それからはっとする。
「おれ、圭くんの様子見てきます」
大ホールから出て行く高塚。
随分マネージャーとしては成長しつつあるようである。
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