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83.ガラコンサート4
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合わせを終え、東野は圭を見る。
「圭くん。怪我してるんじゃない?」
「やっぱり分かる?」
「そりゃ分かるわよ。一度は一緒に演奏した仲じゃない」
楽譜を閉じ、彼女は笑う。
「なんとか不自然にならないように合わせてみせる」
「すまない」
「無理しないでよ?蒼ちゃんが泣いちゃう」
「大丈夫だ」
もう、話してはあるから。
そう言葉を濁しため息を吐く。
調子はいい。
調子はいいのだが。
腕がついていかない。
こんなに楽器自体の調子がいいことは稀だ。
もったいないと思った。
これで万全なら。
ゼスプリのときよりもいい演奏が出来るはずなのに。
頭の中では到達しているはずの指が、少しの間隔で遅れるのだ。
もどかしいったらない。
無理に指を動かそうとすると、じんわり血が滲むのを感じた。
力ずくではダメなのだ。
東野は圭のペースに合わせてくれた。
原曲からすると随分遅いペースではあるが、そんなのもいいのかな?
そう思いながら調整を終える。
そこに高塚がやってきた。
「どうですか?練習」
「うん……。まあまあかな?」
心配そうな彼。
圭は笑顔を見せる。
「大丈夫だ。東野が合わせてくれる」
「そんな……」
恐縮している彼女に、高塚は頭を下げた。
「本当に、お世話になります」
「いいんですってば。それじゃ、あたしは一旦、外に出てきます。15時に戻ればいいですね?」
「はい」
「じゃあ、圭くん」
彼女はにこやかに出て行く。
それを見送ってから、圭は顔をしかめた。
「痛む?」
「結構ね」
「大丈夫なの?10分やそこいらでこんな状態なのに。協奏曲なんて……」
「今更止められるかよ」
袖を巻くって腕を見る。
白い包帯が赤く滲んでいた。
「大変!どうするの?」
「どうするもこうするも。巻き直しする。手伝って」
「うん」
赤く染まった包帯を外し、床に落とす。
椅子に座っている圭の腕をテーブルに載せ、持参してきた消毒をする。
緑の森クリニックの医師から処方されている、軟膏をガーゼであてがってから包帯で抑えるのだ。
「ぎっちり巻けよ。少しくらい窮屈な方が安定していていい」
「う、うん」
おろおろしている高塚を見て、蒼を思い出す。
「リハはどう?」
首を横に振って、話題を振ると、彼はぐじゅぐじゅしながら話を始める。
「ショルが、圭くんがこないならリハやめるとか言い出して」
「わがままだな~。あいつ」
「でも、アレンさんと、おれとでなんとか押さえて……。結局はへそ曲げちゃって、リハは午後からになっちゃったんだけどね」
高塚も頑張っているのだろう。
なんだか迷惑かけ通しである。
「悪いな。高塚」
「ううん。おれなんか、そういうことしか出来ないし。変わってあげることなんて出来ないから」
「いや。配慮してもらえるだけで嬉しい。助かったよ。東野と合わせられて安心した」
「うん。よかった」
ぎゅうぎゅう巻き続けている彼の手元をぼんやりと見ていると、蒼が顔を出した。
「圭?ここだって聞いたから……」
彼もまた。
心配しているのだろう。
「蒼さん」
「高塚くん、どうもね。圭がお世話になっちゃって」
「いえ」
高塚は包帯を蒼に渡す。
「蒼、仕事は?」
「だって。居ても経ってもいられなくて。東野さんが顔を出してくれて。ここにいるって聞いたから」
蒼は複雑な顔をした。
前回のことを思い出しているのかも知れない。
「血、止まらないの?」
「平気だ。こうしてきつく巻いておけば」
無言でそれに答え、蒼は押し黙る。
しばらくの静寂。
すると、突然。
重い扉が開いた。
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