アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
83.ガラコンサート7
-
音楽の世界。
それは華やかなそれとは裏腹な世界でもある。
地道な努力。
血と汗の結晶。
結構、スポ根丸出しの世界でもある。
優雅な音楽を扱うせいか、そのようなものは忘れ去られてしまうが……。
蒼は思う。
音楽はスポーツの一つであると。
身体を駆使して、繊細なる音楽をつむぎだす。
これは過酷な体力勝負でもあるのだ。
『違う!そこはもう少し抑えられるか?』
ショルの指示に圭は懸命に答えようとする。
『そうだ。それでいい』
ショルの指示は多い。
これで配慮してくれているといえるのだろうか?
仕事を抜け出して、ちょっと覗き見に来たリハーサル。
ぽかんとしてみていると、隣にレオーネとブルーノがやってきた。
『お、やってるな』
『聞いたよ。圭。怪我してるんだって?』
話が伝わるのは早い。
『すみません』
『蒼が謝る必要ないじゃん』
レオーネは視線をステージに向けて声を潜める。
『誰にでも平等に起きうることだ』
『それにしても、ショル。随分、控えめだね』
これで控えめ?
蒼にはよく分からない。
首を傾げている蒼にブルーノは説明を加えてくれる。
『絶好調のときのショルはこんなもんじゃないから。圭のことを気遣ってるんだろう』
そうなんだ。
『でもまったく手を抜いたなんてことになったら、圭の名前に傷をつけちゃうからな。ショルもさじ加減が難しいところなんじゃないの?』
レオーネはあごに手を当てて愉快そうに見ている。
『あいつもいい指揮者になってきたじゃん』
そうなんだ。
蒼には分からないこと。
だけど、彼らがそう言うのだからそうなのだろう。
ショルはちゃんとやってくれているのだ。
ただ。
予想以上に圭の負担が大きいってことが問題なようだ。
ふと、曲の途中で圭の手が止まる。
『圭?』
『すまん。続けて』
ショルは頷いて指揮を振り続ける。
辛いんだろうな。
蒼はぎゅっと手を握る。
痛みもあるし。
出血も続いている。
貧血みたいになっているのかも知れない。
足元が覚束ない。
『いい男だねえ。蒼のだんな様は』
険しい顔をしてみていると、隣にいたレオーネが囁く。
「へ?」
レオーネを見て、そして圭を見る。
本当だ。
いい男だ。
圭が音楽に対して、どんな思いでいるのかは、散々見てきたし、聞いてきた。
だけど、今日ほど彼が音楽に対して必死に向き合っているのを見たことがない。
打ち込むものがない蒼にとったら素晴らしいものだ。
そう思えた。
それと同時に、そんな圭を誇らしく感じた。
『本当だ。おれのだんなさんはいい男だ』
涙をぬぐいながら、蒼は笑顔を見せた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
631 / 869