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83.ガラコンサート8
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どんなにあがいても。
本番はやってくる。
朦朧としていた。
控え室のソファで横になり、真っ白い天井を見上げる。
左腕に心臓が着たみたいに、ずきずきと大きく拍動している感じがする。
さっき、鎮痛薬を多めに飲んだ。
そろそろ効いてくるはずなんだけど……。
血が滲んで、観客の目に触れないように、ガーゼは厚めに巻いた。
第一部の休憩時間。
静まりかえった控え室の中で、自分の息遣いだけが聞こえてくる。
第一部は問題なく終了した。
客席は満員。
テレビやマスコミも多数駆けつけていた。
ちらほら知った顔も見受けられる。
桜に乃木。
桃に宮内。
星音堂のメンバー。
星野も油井もいた。
他には室内楽でお世話になった佐伯たち。
柴田もいた。
蒼も。
蒼もいた。
蒼も……。
「圭?」
蒼?
ぼんやりしていた焦点を合わせると、目の前に蒼が居た。
「大丈夫?そろそろステージ裏に行かないと」
「そうだな……」
彼に支えてもらい、やっとの思いで起き上がる。
「はあ……」
「大丈夫なの?圭」
「平気だ。平気」
膝を突いて、心配そうにしている蒼を抱き締める。
「圭……」
「ねえ、蒼。いつもみたいにキスして?そしたら頑張れるから」
「うん」
そっと身体を離して、それから唇を重ねる。
圭のそれは冷たい。
軽い口付け。
だけど長く。
「よし!やるぞ!」
「よし!」
圭の声色に合わせて、蒼も明るく、そして笑顔を見せる。
「しっかり見てるんだからね~。頑張ってよ!」
「任せといて!頑張るよ!」
もう少し。
もう少しだけ、頑張ろう。
圭は蒼を連れ立って控え室を後にする。
ステージ裏ではショルが待っていた。
『頼むぜ。名ヴァイオリニスト』
『そっちこそ。ちゃんと合わせてくれよ。おれは負傷者なんだからさ』
『任せておけ。誰だと思ってる?世界のマエストロだぞ』
圭は大きく頷いて、そしてステージに上がる。
観客からは大きな拍手。
眩しいくらいの光だった。
やれる。
まだ大丈夫。
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