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83.ガラコンサート11
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秋晴れ。
枯れた山に、青々とした空が栄える。
雲ひとつない空を見上げ、大きくため息を吐く。
退屈だった。
視線を自分の左腕に戻す。
がっちり巻かれた包帯。
じりじり熱を持ち、痛みがあった。
もう、しばらくは、本当に楽器は持てないだろう。
医師にこっぴどく怒られた。
もう少し無理をしたら、本当に楽器を持てなくなるところだった。
何度も傷口が開いたせいで、化膿して、腱のほうまで炎症が及んでいたのだ。
短期間での出血のおかげで、貧血にもなったし。
目の前にぶら下がっている真っ赤なバッグを見つめて更にため息が出る。
輸血をしているのだ。
短期集中で輸血をして、何事もなければ明後日には退院できる予定。
病院生活なんて送ったこともないから、落ち着かない。
それにすっごく退屈だった。
病院生活に慣れていないので、どう過ごしていいのか分からないのだ。
「退屈だ……」
そう呟くと、柿を剥いていた蒼が笑う。
「そう言わないの。こうでもしないと、ゆっくり休む時間なんて取れないんだから」
「蒼のけちぃ。せっかく来たんだから、おれが退屈しないようになんか持ってきてくれればいいのに」
「けちとかの問題じゃないでしょう?なに言っちゃってんの!もう、本当に今回はハラハラしたんだから……。そんなわがまま言わないで、きちんと静養しなさい!」
ぶうぶう文句を言いつつも、少し泣きそうな蒼。
あの時のことを思い出したのだろう。
圭は内心嬉しいけど……。
このままだと、本当に蒼が泣いてしまいそうだから。
「あれれ?蒼ちゃん。おれが死んじゃうと思って泣いていたんでしょう?泣き虫蒼」
「ちょ、ちょっと!からかわないでよ!な、泣いてなんかないもん!」
蒼は目元をごしごしすると、ナイフを持ったまま圭に抗議する。
「あ、危ないじゃん!!蒼!」
「知らないよ!圭なんて。柿だってあげないんだから」
「なんだよ~。おれのために剥いていたくせに!」
「自分で食べるんだもん!」
「お見舞いに来て自分の柿を剥くなんておかしいだろう?」
「知らん」
蒼は六等分した柿を嬉しそうに頬張る。
「おいしい」
「蒼、おれには?」
「上げない」
「なんでよ!?おれは病人なんだよ?ほら、手もこの通りで使えないんだから!!」
左手は包帯。
そのおかげで、元気な右手に輸血ラインが刺さっている。
輸血のときは、普通の点滴よりも太い針を使用する。
絶対に動かしてはダメと言うことで、右手もがっちり固定されてしまっていて、身動きが取れないのだ。
「あ~ん、あ~んって。ほら!蒼!」
自分でやっていて情けない。
圭はしょんぼりした。
蒼は吹き出す。
「そこ!笑うとこじゃないだろう?」
「そんなに食べたいの~?柿」
「そりゃそうだ!病院の食事はおいしくないんだから。たまにはおいしいものを食べさせろよ」
「ふうん~……」
蒼は意地悪に笑う。
「病人は病人らしくしてたらいいんじゃないの~」
「蒼!怒るぞ!」
「はいはい。本当に調子いいんだから。人のことはいっつもからかうクセに」
ここいら辺にしておかないと、本当に怒り出しかねないだろう。
爪楊枝で柿を一つさして、それから圭の口元に持っていく。
「はい。あ~んは?」
「あ~ん」
子どもみたい。
ぱくっと頬張って、彼は幸せそうに笑った。
「おいしい」
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