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83.ガラコンサート12
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「そりゃそうだよ。おれが食べさせてあげたんだからね」
「本当だ」
二人は二人の時間を寛ぐ。
今はお昼休み。
星音堂とここは目と鼻の先だから。
蒼はお昼休みになるとやってくる。
そして、帰りも寄ってくれる。
圭としては、付き添いで夜もいてもらいたいくらいだけど……。
けだもがいるのだ。
彼を一人にはしておけない。
退院だって目の前だ。
自宅に帰ったらゆっくりも出来る。
あの後。
お騒がせメンバーたちは日本から出て行った。
レオーネとブルーノは一からやり直しだと言い、地元に帰った。
ショルは相変わらずの売れっ子でスケジュールが満載。
恋人の保住みのりを日本に残し、去っていった。
しかし、彼女がここに居る限り、頻繁に姿を現すことは予想できる。
なんだか複雑な気分だった。
今回のことでは借りを作ってしまったようなものだ。
まさか、ショルに支えられるなんて……。
不覚だった。
高塚は、圭の仕事のキャンセルの奔走しているらしかった。
ぎっちり詰まってはいなかったが、結構、予定は入っていたのだ。
それを延ばせるものは延ばして。
断るものは断って。
あちこち走り回っているらしい。
今後の活動にも影響があるからと、電話で済まさないで、きちんと現地に行って謝っていると聞いた。
高塚は本当に熱心な男だと思う。
医師からは全治1ヶ月の診断を受けた。
今後は1ヶ月。
ニートみたいな生活をするしかない。
楽器も弾けないし。
片手で出来るものだけをこなすしかないだろう。
「これからは、また蒼に迷惑かけちゃうね」
ふと呟くと、蒼はにっこり笑顔を見せた。
「お互い様じゃないの」
「そっかな」
「そうなの」
彼はナイフを片付け、そして椅子をそっと隅に置く。
「じゃ、仕事に戻るね」
「うん……。寂しいな」
「なに言ってるの。夜、また来るね」
じゃあね、と手を振って出て行く蒼。
大した有名人でもないのに。
個室に入れられた。
そのせいで、彼とこうしていちゃいちゃ出来るんだけど……。
蒼が出て行ってしまうと、室内は静まり返っていた。
「はあ」
深くため息を吐いて空を見上げる。
「本当にまた弾けるのかな……」
医者は弾けなくなる一歩手前だったと言っていた
だけど、本当に大丈夫なのだろうか?
左手を見つめる。
じくじくする痛み。
本当に取れるのかどうか疑問になってしまう。
ガラコンの前は必死だった。
このコンサートさえ乗り切れればいい。
そう思っていた。
なのに。
こうして、終わってしまうと、欲が出るものである。
自分には音楽しかないから。
失うわけには行かないのだ。
早く楽器を持ちたい。
自分の身体で確認しないといけないのだ。
不安で仕方がなかった。
自分の周りが暗闇で覆われてしまっているくらい。
「はは……こんなに恐いのって久しぶりだな」
蒼が目の前に居るときはいい。
だけど、彼が去ってしまうと。
圭の周りには真っ暗闇しか残らなかった。
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