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84.暗闇2
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「圭!?」
大きく見開かれた瞳に映ったのは蒼だった。
「蒼……?」
「大丈夫?圭」
冷たく冷え切った左手を握っていたのは蒼だった。
「恐い夢?大丈夫?」
大丈夫ではない。
荒い息を吐きながら、時計に視線を向ける。
もう20時を回ったところだった。
今帰り?
「ごめん。大丈夫……」
額を拭われ、ほっと一息した。
ここは病室。
蒼は仕事帰り。
なにも変らない。
重く感じられる左手は蒼の手で包み込まれている。
「心配ない」
「でも、」
蒼はそれでも心配そうだ。
しかし。
蒼にそんなに心配されても、自分でもどうしていいのか分からないのだ。
圭は首を横に振る。
「平気だ。蒼が心配するようなことじゃない」
蒼はおろおろしている。
「でも」
「蒼には関係ないんだよ。これはおれの問題だから。蒼に心配されたからって治るものでもないし」
低い声に、蒼は黙り込む。
はっとしても遅い。
さすがに言い過ぎた。
「いや。ごめん。蒼」
だけど、彼はしゅんとしている。
「蒼、帰りな。けだもも待っているし。疲れているだろう?おれのことはいいから」
「圭……」
無言で返す。
もう話はしないと言う意思表示だ。
蒼は諦めて立ち上がる。
「じゃあ、今日は帰るね。明日も来るね」
そそくさと出て行く彼を見送って、頭を抱える。
「蒼に八つ当たりしてどうすんだよ……」
真っ暗な窓の外を見つめ、大きくため息を吐く。
夜、眠るのが恐い。
また夢を見るかも知れない。
恐い夢を。
眠らずにいよう。
ベッドを降りて、カーテンを閉める。
こういうとき、一人部屋は嫌だった。
静まり返っている病室。
夜は長そうだった。
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