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84.暗闇8
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圭は荷物を握り締めて、そして、こっそり事務室を覗く。
中は賑やかだった。
星野が椅子にもたれた格好でにこやかに話をしていた。
水野谷は?
いないようだ。
そういえば、蒼が言っていたっけ。
また、星音堂の文化祭があるから忙しいと。
それに、市制100周年の音楽祭があるとも。
忙しいのだろう。
大きくため息を吐いて、どうするか迷う。
蒼に逢いたいのは山々だけど、逢いに行ってどうすると言うのだ。
みんなには花束のお礼とか、運んでもらったお礼とかをしなくてはいけないのだろうけど。
手土産もなく入るのも気が引けた。
「どうするかな……」
ぼそっと呟くと、「なにがどうするって?」と低い声が響いた。
びっくりして顔を上げる。
そこには長身の黒い男が仁王立ちしていた。
「あ、安齋さん……?」
「久しぶりじゃないか。ヴァイオリニストくん」
圭が安齋と顔を逢わせるのは本当に久しぶりなことだった。
彼が星音堂に勤務していた頃、圭もよく遊びに来ていたので知っている。
遊びに行っても大して歓迎してくれない安齋は恐い存在だった。
とっつき難いし。
感受性の強い圭は、特にそうだった。
「お久しぶりです」
「覗き見か?」
「はッ!っと。そういう訳じゃ」
「ふうん」
彼は怪訝そうだ。
よく吉田はこんな男と一緒にいられるものだと思う。
蒼と同じ感想だった。
「そういう安齋さんこそ。どうしたんですか?今は本庁に移動になっているんじゃ……。あ!そっか。吉田さんに逢いにきた、とか?」
「お前と一緒にするな。勤務時間中に私情を持ち込む気はない」
「ぐ……」
なんだか前にもまして厳しい男だと思った。
星音堂にいたときは、もっと猫被っていたと思ったけど……。
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