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85.主夫の1日6
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予想外の寄り道だった。
桜の店に到着したのは昼下がり。
店内に顔を出すと、野木が掃除をしていた。
「おう!元気か」
彼は似合わないエプロンをしてモップかけをしていた。
「こんにちは」
「ヴァイオリン持てなくてプラプラしてんのか?」
皮肉なのだろうけど。
「ええ、まあ」
圭は受け流す。
彼は店内に入るや否や。
きょろきょろしてテレビを見つける。
「ちょっと、30分くらい見てもいいですか?」
「え?ああ。うん」
野木の許可が出て圭は嬉しそうにリモコンを操作する。
こんな昼間に何を見るのか……。
彼が選んだ番組は昼の連続ドラマだった。
「はい!?お前、こんなの見ているの?」
「昨日から見ているんですけど、続きが気になっちゃって。結構、面白いんですね。こういうドラマって」
圭は瞳を輝かせて見入る。
呆れた表情でいる野木。
「昼ドラってドロドロしてんじゃん」
「そこが面白いんじゃないですか」
彼は説明を続ける。
「主人公は双子の女性なんです。辛い生い立ちがあるんですが、二人は協力しあって生き抜くんです。だけど、その内、離れ離れになってしまって。一人は良家の養女に。もう一人は酒乱のオヤジのいる一般家庭に」
「境遇が違ってしまうって訳か」
「そうなんです。その二人が大人になって、ある一人の男性を巡って再会するんです」
「ありがちなパターンだな。どうせ、良家のお嬢様のほうがいいやつなんだろう?」
いつの間にか、野木も隣に座って鑑賞している。
圭はおかしくて仕方がない。
「野木さん。甘いですね」
「はい?」
「このドラマではお嬢様のほうが良家で苦労してひねくれちゃっているんですよ。酒乱のオヤジの元で苦労して育った子は、弟たちを育て、まっすぐに素直な子に育つんです」
「じゃあ、その男は純朴な子に魅かれるわけだ」
「そうなんです」
なかなか捻った設定だ。
野木もいつしか興味津々。
「あ、この子が?」
「そうそう。純朴女性」
二人は「わあ」とか、「ふうん」とか言いながら必死にドラマを鑑賞する。
純朴女性が弟たちを世話しているところを影ながら見守る男性。
更に、それを憎憎しい表情で見つめるお嬢様。
そこで画面には「続く」と出る。
「ああ!こんないいところで終わりかよ!?」
「気になるでしょう?続き」
「すっげぇ、気になる!!」
うおおお!っと頭を抱える野木。
「あんたらバカじゃないの」
ふと顔を上げると、いつの間にか桜がカウンターのところに居た。
「桜さん……」
「なにサボってるのかと思いきや」
「だ、だって!これ、すっごく面白いぞ!桜」
野木は一生懸命だ。
さっきまでバカにしていたクセに。
笑ってしまう。
「圭も圭よ。いくらオフだからってすっかり主夫の真似事をしなくていいんだからね」
「いいじゃないですか。こういう楽しみ方もあるんだなって」
「ドラマなら自分の家で見ろよ!」
桜は呆れている。
「いいじゃないの。こういうのを見て感性を育てるのも音楽家には必要なんだろう?」
「媒体が微妙だな」
いつの間にか、野木と桜の掛け合いになっている中、圭は時計を見て立ち上がる。
「おれ、帰らないと」
「え?」
「もう帰るのかよ?」
圭が現れたと言うことは、てっきり桜の演奏でも聞きにきたのかと思ったのに。
野木は目を丸くする。
「お前、なにしに来たんだよ?」
「え?えっと。桜さんと野木さんの顔を見て、そしてドラマ見たくて」
「そっちか!!」
「だって~……。やべえ。タイムサービスがあるんですよ!2時30分から。卵が1パック100円なんて、お得じゃないですか?」
圭はそうまくし立てると、「じゃ、どうも!」と店を出て行った。
ぽかんとしている桜と野木。
顔を見合わせてため息を吐く。
「主夫、しすぎじゃないか?」
「案外、素質があるのかも知れないわね」
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