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86.二人の時間2
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合唱のお手伝いを経験して、少しは楽譜が読めるようになったけど。
複雑なものはよく分からない。
音にしてしまえばなんてことないものでも、楽譜になっていると理解不能だ。
誰か弾いてくれると助かるんだけど。
基本的に、星音堂職員たちはまるっきりの素人なので、曲自体は簡単なものになっているのだ。
早く耳で聞いて覚えないと。
楽譜を見ていると気持ちばかり焦った。
「キャスティングはどうなるんっすか?どこを覚えればいいのかな?」
三浦の質問には吉田が答える。
「去年はみんなで最初から練習したんだ。そして、途中で講師の先生の独断と偏見でキャスティングされたんだ」
「独断と偏見?」
今度は尾形が口を挟む。
「去年は着ぐるみだったからさ。ルックスとかは関係なかったわけ。音域と声色で選ばれたんだ」
「去年はなにをやったんですか?」
「ブレーメンの音楽隊だよ」
蒼は引き継いで説明を行う。
「高音が出やすかった吉田さんが鶏で、猫がおれ。犬が尾形さんで、ロバは星野さん。盗賊団は課長と氏家さんと高田さんで……」
三浦は愉快そうに聞いていたが、手を鳴らす。
「じゃあ、結局は今回もそうじゃないっすか?」
「?」
「だって、音域とかは替わりないんだし。こうして楽譜を見てみて……」
三浦は楽譜をみんなの前に広げる。
「最高音があるキャラはねずみだから……。そうすると吉田さんっすよね?」
「お、おれ?ねずみ?」
「んで、次に高音域なのはシンデレラ。じゃあ、これが蒼ちゃん」
「ちょ、ちょっと!」
彼は次々に役を割り振ってしまう。
「次が意地悪姉さん二人でしょう?尾形さんと星野さん。意地悪母さんは高田さん。で、魔法使いは課長。王子様は氏家さんじゃないっすか?」
「じゃあ、お前はなにやるんだよ?」
「あ、そっか」
三浦は頭を抱える。
「あまっているお付の人?」
星野は勝手に仕切られて面白くないらしい。
「やっぱりお前が王子様やれよ!どう頑張っても氏家さんが王子様はちょっと無理があるだろうが!」
「おい!」
確かにそうだけど……と氏家はぶつぶつ文句を言う。
「キャスティングを早く決めるのはいいことだと思いますよ。じゃないと、全部をみんなで覚えるなんて負担が大きすぎます」
それはそうだ。
この楽譜の厚さを考えたら。
やっぱり自分のところだけ覚えたほうが楽だ。
騒動に発展しそうな騒ぎを鎮めるのは水野谷の仕事だ。
「わかった、わかった!じゃあ、今日の夜に声楽の先生が来るから、相談してみるから。それでいいだろう?」
「は~い……」
一同は不安な気持ちのまま席に座った。
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