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86.二人の時間5
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「そりゃ分かるでしょう。分からなくなったら、仕事をやめるしかない」
圭は笑う。
「ごめん。失礼なこと言っちゃったね」
「いいって。どうせ、蒼は分からないんでしょう?それでしょんぼりしてるんだ」
「なんで分かるの?」
「蒼のことはなんでもお見通し」
楽譜を閉じ、まずは食べてからにしよう、と彼は言う。
「まずはって」
「手伝ってあげるから。ちょうどよかったのかもね。おれも休みだし。文化祭までみっちり付き合って上げられるみたいだよ?」
その言葉に蒼は瞳を輝かせる。
いままでのしょんぼりはどこへやら。
「本当!?いいの?圭が教えてくれるんなら、間違いなしだ!」
「おれは厳しいけど?いいの?」
「ぐ……」
一瞬、言葉に詰まるが、それでも一人でやるよりはましだ。
蒼は姿勢を正して、床に手をつく。
そして頭を下げた。
「宜しくお願いします」
ソファから見ていた圭は笑うばかりだ。
「レッスン料もらわないとだね」
「え!お金取るの?」
「お金じゃなくてもいいよ~」
なんだろう?
家事をやらせられるとか?
圭が一日中いるせいか、すっかり家事は任せ切りだ。
自分でもまずいな~とは思っていたところだったから。
何を請求されるのか、想像しただけで不安になる。
目を白黒させている蒼を見て、圭は苦笑する。
「そんなに大そうなものは請求しないよ。専門外のレッスンだからね。……そうだな。毎日、蒼からのキスって言うのもいいかもね」
「え!」
今度は顔が真っ赤だ。
「蒼は面白いなぁ。顔色が一瞬にして変わるんだから」
「だ、だって。なに、それ?どういうこと?」
「いっつもおれからじゃない。これから本番まで。毎日。蒼からキスしてくれたらチャラにしてあげる」
圭は悪戯に笑みを見せ、身を乗り出した。
「じゃあ、さっそく。はい。キスして」
「……ッ」
「ほら。蒼~」
圭に急かされて、蒼はもごもごしながら側に行く。
いつも圭にしてもらっているので、自分からと言うのはなかなか恥ずかしいものだ。
そっと顔を近づけて、唇が触れるか触れないかのところになったその時。
がたんッ!
大きな音にはっとする。
顔を上げると、いつまでも二人でもぞもぞやっていたせいで、けだもが我慢できずにテーブルの上の焼き魚に手を伸ばしたところだった。
背伸びをして手をついた瞬間、皿が跳ね上がり、飛んでいったようだ。
「けだもッ!」
圭の声と、自分で立てた音にびっくりして、けだもは魚を咥えてぴゅーっと逃げていってしまう。
蒼は苦笑する。
「けだもは待ちきれなかったんだね」
「本当だ。どれ。仕方ないな。もう一匹焼いてあげるから」
「うん」
台所に立つ圭を見送り、蒼は大きくため息を吐いた。
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