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86.二人の時間7
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「なんとも、乙女が憧れてしまうような内容だな」
表紙裏に描かれているあらすじを読んで、圭は笑う。
「いいじゃない。女の子たちはこういうストーリーに憧れるもんだよ」
「蒼は乙女の気持ち分かるの?」
ピアノの椅子に腰掛けていた圭は、側の椅子に座って、足をぶらぶらしている蒼を見る。
「乙女って言うか。ほら。人間ってそうじゃない?今までバカにして、散々苛めてきたのに。結局、そういう人間には幸せにはなれなくて、シンデレラみたいに努力していた人間が最後には報われる」
「美談だな」
「でしょう?こういう世の中だもの。不条理なことが多いじゃない。一生懸命やっている人ほどお金がない世の中だよ?」
「蒼みたいに?」
「そうそう。おれみたいに……って!ちょっと!どうせ貧乏暇なしですよ!」
蒼は頬を膨らませる。
「そう怒るなよ。冗談だって。公務員で安定しているクセに貧乏暇なしなんて言ったら他の人に失礼だ」
「そっかな?」
「そうなの!蒼は案外、恵まれていると思うよ。ぶっちゃけて言うと、公務員はなにもしないで出勤だけしたって給料は減ることはないんだから」
「それは……」
そうだ。
一般企業みたいに、能力制ではない。
結局は学歴社会だ。
大卒じゃないと、管理職まで手が届かない人だっているくらいだ。
未だに。
「おれなんか、自分でなんとかしないと収入はないし。ギャンブルみたいなところがあるからな~」
「安定はしないよね?」
「そうだね。音楽家として、安定を求めるなら教師にでもなったほうが無難だ。地道にやって続けていくしかないんだよ。おれたちは」
華やかな世界とは裏腹だ。
「そう考えると、シンデレラって奥が深いよな?結構、教訓がこめられているのかも」
「本当だ。ただ乙女たちが王子様に出会って幸せになるって言うラブストーリーとは違うのかも知れないね」
圭は膝を叩いて笑い出す。
「いいこと思いついた!」
「なに?」
「いやさ。このストーリー、そのままサラリーマンにも置き換えられると思って」
「へ?」
圭はにこやかに話す。
内容は新米サラリーマン蒼が先輩である星野たちに苛められていると言うもの。
結局、蒼はどこかのお偉いさんに引き立てられて、先輩たちよりも出世し、苛めていた人たちが痛い目に遭うと言うものだった。
「確かに。そういうストーリーはざらにありそうだ」
「だろう?」
顔を見合わせて笑い合う。
蒼はふと思う。
こういうゆったりした時間が持てるって幸せだなって思った。
圭がヴァイオリンを持てないことは残念なことだけど。
こういう時間が持てるのであれば、蒼にとったらよかったことなのかなと思った。
それから、星音堂職員の話にまで話題が及んで、時間ばかりが過ぎていった。
結局、音取りが出来たのは1ページ目だけだった。
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