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87.猛獣使いと猿山1
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文化祭の練習が始まると、仕事に身が入らないのが毎年恒例のこと。
みんなそわそわしている様が見て取れた。
蒼もがっかりだ。
昨日は、圭が付き合ってくれたのに。
結局、譜読みできたのは1ページ目だけ。
心配だった。
みんなはどれくらい読んできたのだろうか?
案の定、お昼休みになると、その話題で持ちきり。
「これって、眠れない人に大好評だと思いますよ。おれ」
吉田は偉そうにそう断言する。
「ベッドに入って、開いた瞬間に寝ました」
「自慢できることかよ」
星野は突っ込みを入れる。
「そういう星野さんはどうなんですか?」
「おれ?おれ、楽譜は読めないし」
「そっちこそ自慢になりませんよ」
低レベルな争いを見て笑っていた氏家だが、彼はふと気付く。
「そう言えば去年は先生と一緒に音取りをしていったから気付かなかったが……。楽譜読めない奴ってどれくらいいるんだ?」
その問いに手を上げたのは大半の職員。
手を上げていないのは三浦くらいなものである。
「蒼は?蒼は合唱やっているんだろう?」
「そうですけど。こんな難しいのは分かりません」
「ど、どうすんだ?こんな状況で」
氏家は焦った。
声楽講師は、自分たちが音楽関係のホールに勤めているから音楽に精通していると思っているのかも知れないが。
去年の自分たちの実力を見てもらえれば分かる通り、限りなくゼロに近いのは事実だ。
「自習制にされても、なにも出来ませんよね」
尾形も首を捻る。
外食に出ていた水野谷が帰ってきたら相談したほうがいいだろう。
こんな無謀なことをしていても、上達はしないだろうし。
無駄な時間が掛かるかも知れない。
前途多難とはまさにこのことだろう。
昼食から帰ってきた水野谷を見つけて、彼はさっそく相談した。
「確かに。氏家さんの言うとおりだな」
水野谷も考え込む。
「おれも、楽譜を開いてはみたものの、なんとも難解で1ページくらいしか進まなかった」
「課長もですか」
「どうするかな」
ふと視線を上げると、職員全員が自分を注視している。
なんとかしてくれると思っているのだろう。
彼はため息を吐く。
「仕方ない。先生と相談してみるから」
水野谷は自分の机の電話から受話器を持ち上げた。
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