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87.猛獣使いと猿山2
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市制100周年記念事業も大詰め。
この記念音楽祭を成功させれば、後は小物ばかりなので、安齋たちの役目も終わる。
安齋はピリピリした感じで星音堂の玄関をくぐる。
目の前には室長である保住。
そして、自分の後ろには補佐としてやってきた田口と大堀がいた。
明日は記念音楽祭のリハーサルの日。
その翌日は本番。
今日は最終打ち合わせだった。
イベント開催期間中は、企画室全体で関わることになっているので、みんなで一緒に来ていた。
安齋にとったら古巣である。
勝手知ったる場所。
それだから余計にピリピリしていたのかも知れない。
なにせ、ここの職員たちは仕事をするのが嫌いなことを知っているからだ。
面倒を起こされないといい。
自分たちだけなら何事もなく進むことでも、この職員が入るとなにを仕出かすか分からない。
そこが一番の心配だった。
だから、昨日だって吉田にはみっちり言い聞かせた。
この事業は必ず成功させなければならないと言うことを。
重々分かっていると彼は言っていたけど……。
「こんにちは」
保住の声に顔を挙げ、自分も事務室に顔を出してがっかりした。
案の定だ。
仕事をしている奴なんか誰もいない。
みんな自分たちの文化祭の楽譜を広げ、ああだこうだ言っている。
仕舞いには、衣装の寸法合わせでもしているのか?
尾形がメジャーを持って、高田の寸法を測っているところだった。
水野谷はどこへ行った?
きょろきょろすると、意図を察したのか、氏家が返答した。
「課長は吉田の耳の手配にちょっと出掛けちゃって。すぐ帰ってくると言っていたんですが……。遅いなぁ」
耳の手配ってなんだ!?
安齋はイラっとした。
しかし、保住は「ほほう~」と愉快そうに笑っている。
「何事ですか?これは」
氏家は慌てて保住の前に出てくる。
水野谷が不在の場合、彼が課長補佐なのだから。
「すみません。市制100周年記念音楽祭が終わると、すぐに自分たちの文化祭があるものですから」
「星音堂の文化祭の噂はかねがね。ここ最近では、評判がいいようですね。是非、おれも見てみたいな」
「そんな大したものではありませんよ。やだなぁ」
顔を見合わせて笑っている二人。
笑っている場合か!
安齋はイライラしていた。
大したものじゃないなら、今ここでする必要はないではないか?
何故、今日なのだ?
内心ムカムカしている様子に気が付いているのは吉田と。
そして、星野と蒼くらいなものだ。
星野は慌てて撤収を命令する。
「保住室長たちがお見えになったんだ!ほれ!自分のものは片付けて」
星野に急かされて、なんのことやら分からない三浦はもたもたと楽譜を机にしまう。
その拍子に、積み上げられていた今日の打ち合わせ書類が床に散乱する。
「あわわわ~」
「三浦はドジだな~」
あはは~なんて笑っている高田はつわものだ。
このピリピリした状況が分かっていないらしい。
蒼は表情が引きつる。
しかも、安齋のイライラに追い討ちをかけるのは保住だ。
「構いませんよ。我々が早めに来ただけですから。みなさんはみなさんのペースで仕事をしてもらったほうがいい」
「室長!」
耐え切れなくなった安齋は低い声で保住を嗜める。
彼の後ろにいた大堀なんかは肩を竦めておろおろするばかりだ。
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