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87.猛獣使いと猿山6
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「それにしても、あの保住室長って相当なやり手ですね」
「確かに」
同意したのは高田。
「あの安齋を一瞬で黙らせるんだ。すごい奴だ。若いのに、才能があるんだろうな」
「あの若さで室長職って異例ですよね?」
吉田も同感だった。
自分にはあんなことは出来ない。
保住の真似をしたら、「生意気だ」と一蹴されるだけだろう。
すごいと思う。
かと言って、そういう才能が欲しいとはあまり思わないが……。
吉田にとったら、安齋の目は獰猛な獣には見えない。
大型動物のつぶらな、優しい視線にしか見えないのだから。
彼をどうこう操りたいなどと言う思いは毛頭ない。
むしろ、職場での獰猛な獣と吉田の前の優しい獣とを使い分けてくれている彼を嬉しく思えたのだ。
むふふと笑っていると、それに気が付いたのか。
星野はぼそっと厭味を言う。
「保住室長に飼われた猛獣に囲われているお前は、食用うさぎってところだな」
無論、吉田や蒼にしか聞こえない声で。
「ほ、星野さん?」
蒼は笑ってしまう。
うまい例えだ。
しかし、吉田からしたら心外である。
「ひどい……。食用って前置きはいらないです」
「吉田。現実を見ろ。現実逃避はいけないぞ」
真剣な目で見られても困る。
せっかくいい気分だったのに。
彼はしゅんとしてしまっていた。
それを見て気を良くしたのか?
星野は続ける。
「だけど、ウチの課長だってすごい課長じゃないか。あの安齋の育ての親みたいなもんだぞ?おれたちがこうして楽しく仕事をさせてもらえるのも課長のおかげ」
「おいおい、星野。なんだよ?急にゴマすりか?」
高田は茶々を入れるが、氏家も同意する。
「水野谷課長も上司として出来た人だと思っている。さりげなく、おれたちの心理を読んで、先手必勝で対策を打っているからな」
「そうなんっすか?」
入って半年の三浦にとったら、まだ実感はないだろう。
だけど、蒼には思い当たる節がたくさんある。
自分がここにいられるのは、彼のおかげなのだ。
尊敬している。
なんだか、誇らしくなって水野谷に視線を向ける。
と、彼は受話器を置いて、嬉しそうに声を上げた。
「おい!朗報だぞ!!」
「なんです?」
氏家の問いに、彼は立ち上がった。
「ねずみの耳。半額まで値切った!おれの勝利だッ!」
満足げに笑っている彼を見て、一同は思う。
この職場が仕事をしたくない雰囲気をかもし出している最大の原因は、この人なのではないかと……。
「半額まで値切ったのは初だな。この調子で、今年は値切りまくるぞ!」
物品をそろえると言う目的からは大きく外れた自己満足の世界に浸る水野谷。
物品票を見て、にんまり笑う。
「まあ、市制100周年記念室が動物園の肉食獣の檻だとしたら、星音堂は、サル山ってところだろうな。ちょうどいいのかも知れないな」
蒼は星野の呟きに大きく頷いていた。
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