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88.乱入者登場4
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「そういうものです。あ、いや。有田くんは、まだまだこれからだから。うん。年寄りの話になんて耳を傾けないほうがいい」
苦笑していると、圭一郎が飛び起きた。
「なんの話だ?指輪か?指輪」
仕事の話の間は眠っていたくせに。
こういう話になると聞こえているらしい。
有田は呆れる。
「いい加減にしてください。打ち合わせ中くらい、しっかりしてくださいよ」
「お前がいるのだ。いいではないか。おれが入ったらかき回してまとまるものもまとまらなくなるぞ?」
「自分で言っていたら救いようがないです」
大きくため息を吐く有田。
水野谷は笑う。
いいコンビなのだ。
いつまでも笑っていると、ふと圭一郎が水野谷を見た。
「星音堂の文化祭では職員のミュージカルをやるそうじゃないか」
「ええ、まあ」
「面白そうだ!!」
圭一郎はソファの上に立ち上がり、高らかに笑う。
「おれもやる!」
「は?」
「マエストロ!!」
有田は「また病気が始まった!」と慌てるが遅い。
そんな面白い話、彼が放っておくはずがないのだ。
「おれが指揮する」
「マエストロ!第二部の出演だけでもいっぱい、いっぱいなんですよ?どうする気ですか?」
「いいじゃないか。毎日、オケと合わせるわけでもないのだろう?だったら、適当に調整して合わせればいい」
そうは言うが、有田の苦労は痛いほど分かる。
水野谷は口を挟んだ。
「関口先生。我々は第二部に参加してもらえるだけで十分ですから。ね?」
「いや!これはおれの問題ですから。こんな面白いものが目の前に転がっているのに、やらない手はない」
「しかし……」
「しかしもへったくれもない!」
圭一郎は瞳を輝かせて、ソファから飛び降りたかと思うと、靴も履かずに一気に駆け出した。
「先生!?」
「マエストロ!!」
どこに行くのか?
二人は慌てて彼を追いかける。
長身であるが故、彼の走るスピードは半端ない。
運動不足の水野谷にとったらしんどいものがある。
階段を駆け下りて、一階の事務室に駆け込んだ圭一郎。
二人が追いついたときには、すでに話しは始まっていた。
「ミュージカルの楽譜はどこだ?」
開口一番の言葉がこれ。
仕事をしていた職員たちはぽかんとして圭一郎を見ていた。
「あ、あの?」
「灰かぶりだよ!灰かぶり!」
星野は慌てて、自分の楽譜を差し出す。
そこで追いついた有田が声を上げる。
「マエストロ!勘弁してくださいよ」
「お前には迷惑はかけない」
もうすでに迷惑なのだと彼は無言で返す。
楽譜を見て更に目を輝かせる。
「素晴らしい!これは誰の作曲なのだ?」
膝に手を付いて、肩で息をしている水野谷は途切れ途切れに答える。
「神崎先生の、です」
「彼女か!独創的だな。ふむ。ここはどうして小さくなるのだ?ふむふむ。なるほど!そういうことか。実に面白い」
側のソファにどっかり腰を下ろし、彼は熱心に楽譜を読み始める。
「なんと!そう来るのか……。ああ、次への布石なのだな」
こうなると一人の世界だ。
事情が飲み込めない、職員たちは取り残される。
「課長?どういうことなんです?」
氏家がこっそり声を上げる。
「ミュージカルの指揮を行ってくれるそうだ」
「え?」
「ええ!?」
世界的なマエストロが?
一同は彼に視線を戻す。
これは大変なことになった……。
ぶつぶつと言葉をつむぎながら、愉快そうにしている圭一郎を見て、蒼は不安になる。
例年になくお粗末な自分たちの指揮をして、彼の名前に傷がつくのではないか?
そう思ったのだった。
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