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89.灰かぶり姫1
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星音堂文化祭。
それは星音堂職員にとったら、一年で一番ビックなイベントであった。
いつもは裏方に回っている自分たちがステージに立つのだ。
去年はブレーメンの音楽隊を行い、大盛況だった。
市長にも気に入られ、今年は大幅に予算をもらっていると聞いている。
しかし、その予算も底を突くだろう。
なにせ、世界的に有名なマエストロ関口圭一郎が指揮を振るのだ。
そして、彼は自分の現在のパートナーである明星オケを連れてくる。
明星オケと言ったら、日本でも有数のプロオケだ。
ギャラは弾むに決まっている。
水野谷は予算書を見ながら頭を抱えていた。
文化祭まで1週間。
本当であれば、ギャラなんて事前に決まっていることなのだが……。
今回の場合、全てが突然で動いていたために、なにも決まらずに本番前を迎えてしまっていたのだった。
仕事時間であるが、間に合わなくなってきている職員たちには、楽譜の勉強をしてもいいと許可を出してある。
そのため、彼らはせっせと楽譜とにらめっこをしているのだ。
思ったほど、暗譜作業は滞ってはいない。
それもこれも、今年から参加の三浦のおかげだ。
意外だった。
彼がこれほどまで楽譜を読める才能があるとは……。
本番までにオケとの合わせは3回ある。
第一回目が今日。
そして、前日と当日の3回だ。
3回と言うと、かなり少ない気がするが、圭一郎相手の話である。
3回も取れたと言うべきだろう。
有田に感謝するしかない。
今夜の練習を考えると、みんな緊張しているのだろう。
いつものおちゃらけた雰囲気はなかった。
そして、水野谷も。
今晩は有田とギャラの話をしないといけない。
困ったものだ。
出来ればしたくない話。
だけど、しないではいられない話。
今晩は作曲家の神崎やら、去年の指揮者横川やらが来ると言っていた。
それ以外にも、昨年のアンサンブルチームの面々などが来るらしい。
どこから聞きつけたのか知らないが、市内の主要な音楽関係者たちがやってくるのだろう。
みんな、マエストロの指揮指導を拝みたいのだ。
滅多にない機会だから。
お金の話もあるし。
リハのこともあるし。
水野谷はお腹の痛みを感じる。
いつもストレスが身体に出ることはないのに。
珍しいことだ。
「おれも年だからな。気をつけないと……」
大きくため息を吐いて、水野谷も楽譜を広げた。
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