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89.灰かぶり姫4
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関口圭一郎は褒め上手な指導者であった。
素人の自分たちに、頭ごなしに怒っても上達しないことは目に見えているのだろう。
「高田さん。そこ、すっごく雰囲気があっていいですよ。更にもう少し抑えてみましょう。そうすると、もっと意地が悪く聞こえる」
指導される人も、見ている人も。
みんな朗らかに笑い合いながら、練習は進んでいった。
「せっかく徹夜をして並んだのに。自分の目の前の人で整理券の配布が終了したときのことを想像してみてください」
「すごくむかつく」
三浦は頷く。
「そうそう。そんな感じで」
「え?」
練習を見にきていた客席から笑いが起こる。
圭一郎と言う人は本当に想像力が豊かだ。
「意地悪お姉さんはおいくつですか?」
「え!」
えっと……と高田は思案する。
20にはなっていない?
シンデレラが結婚できるくらいなんだから。
「20は越えてますかね?」
「じゃあ、長女は22歳。次女は20歳。シンデレラは18歳にしましょうか?」
圭一郎の言葉に、水野谷は苦笑する。
「随分若いですね」
「そうですか?少し上?長女が25歳。次女は22歳。シンデレラは20歳。いや、もっと上かな?長女は年増で40歳。次女は35歳。シンデレラは25歳にしましょうか?」
「ぶッ」
高田は吹き出す。
「長女が40では、母親はいくつになるんでしょうかね」
「ああ、そっか。課長さん。60代になってしまいますね」
「ひどいです。先生」
水野谷は苦笑するばかりだ。
楽譜を抱えて話を聞いていた蒼はほっとした。
圭一郎の話術のおかげで、みんなリラックスできている。
自然に歌えるのだ。
楽しく、そして真面目に。
彼の人間性そのものなのかも知れない。
一瞬、お茶らけて見えるそれも、目的があることなのだ。
もしかして、天然ではなくて計算ずくで動いている男なのでは?
そう思ってしまう。
「じゃあ、ここでシンデレラも加わってみようか」
ふと話を振られて、蒼は慌てて出て行く。
「宜しくお願いします」
「うん。キミと競演できるなんて夢のようだよ」
瞳を細め、蒼を優しく見ている圭一郎。
安心した。
出来る。
そう思った。
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