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89.灰かぶり姫5
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第一回リハーサルは無事に終了した。
終了後、圭一郎は見にきていた柴田たちに引っ張られて夜の町に消えた。
宮内たちも、今晩は市内に一泊して、早朝には東京に戻ると言うことだった。
こっそり途中から見学していた圭は彼を自宅に泊まるように誘った。
星音堂職員たちは片付けに追われた。
このまま行けば、文化祭は順調に進みそうな気がしていたのだが……。
本番は明日に迫っていた。
前日の今日は、夜に第二回目のリハーサルがあったり、衣装やら小道具やらの最終確認の作業と、会場設営などの仕事に追われているところだったのだ。
小道具の確認をしていた尾形と吉田。
明日のスケジュールの最終確認と手配の再調整を行っていた蒼と三浦。
駐車場や受付の看板造りをしていた氏家と星野。
明日、星音堂事務の留守を引き受けてくれた市制100周年記念室への確認を行いにいった水野谷。
みんながそれぞれの役割をこなしている最中の出来事。
「あいたたたたたッ……」
突然の声に、一同は顔を上げる。
声の主は星野。
なんだか以前にも見た光景だ。
デジャビューではないかと誰もが疑う光景。
星野は看板造りで中腰になっていたが、突然、腰を抑えて側のソファに手をついた。
「星野さん?」
「大丈夫ですか?」
「星野!?」
職員は駆け寄る。
「いてぇ!」
「またぎっくり腰!?」
彼は以前にもぎっくり腰をやっている。
その時もひどい目に遭った。
ほとんど動けなくて、車椅子に乗せられた経験もした。
「だから、看板造りはおれに任せてくださいって言ったじゃないですか」
吉田は星野の腰を擦りながら言う。
「うるせぇ。これはおれの十八番なんだよ。お前なんかに任せて溜まるか……」
「もう!強情っぱりなんだから……」
しかし、いくら強情を張っても痛みは軽減しない。
玉のような冷や汗が頬を伝う。
「救急車!」
「いや、あの……」
「公用車あっただろう?あれでこの前通院したところに運ぼう!」
氏家の指示で、職員はバタバタと走り回る。
「すみません……」
「いいって。お互い様だろう?お前はいつもおれたちのために頑張ってくれているんだ。気にするな」
尾形が入り口まで車を回し、それに高田が付き添って出て行く。
その間に、本庁に行っている水野谷へ、氏家が連絡を入れた。
取り残された蒼と吉田と三浦。
「星野さん、大丈夫かな?」
「またすぐに復帰できるだろうけど……」
吉田は顔色が悪い。
「本番、どうするんですか?」
「本当だ。王子様って蒼ちゃんを抱きかかえるシーンもあるんですよ」
確かに。
練習のときも星野はつらそうだった。
悪いなとは思っていたけど、自分も精一杯だったせいで、そこまで気を回すことが出来なかったのだ。
「課長も弱ったな。星野のことを責めることは出来ないけど、困ったことには変わりないな」
水野谷に連絡をしていた氏家は肩を竦めて戻ってくる。
「氏家さん」
「どうするかね。今更中止もなんだし。おれたち以外にこの曲を練習している輩も居ないしな」
それはそうだ。
この曲は初演なのだから。
自分たち以外には……。
「あ」
ふと蒼が声を上げたので、他の職員たちは彼を注視する。
「どうしたの?蒼」
「?」
「あ、あの。一人だけ」
「え?」
「一人だけ。おれたち以上にこの曲を覚えている人がいるんですけど……」
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