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89.灰かぶり姫6
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蒼から連絡をもらって、圭はすぐに星音堂にやってきた。
その頃、緊急事態と言うことで水野谷も戻ってきたので、二人は駐車場で一緒になる。
「課長!大変でしたね。星野さんは?」
「まだ分からん。今、高田たちが連れて行っているから。診察が終われば連絡が入ると思うのだが……。なに?どうしてお前がここにいる?」
「さあ?蒼に呼ばれて」
二人は顔を見合わせる。
そして連れ立って事務室に入った。
「圭!あ、課長も」
「なんだ?なにごとだ?」
蒼はえっと……と言葉を濁す。
そんな彼に代わって氏家が口を開いた。
「星野。間に合わないと思うんです。例え、出られたとしても、王子の役はきつすぎる。そこで、ピンチヒッターで関口を立てられないかと思いまして」
水野谷と圭は顔を見合わせる。
「え?」
「お、おれ?」
「関口は蒼の練習に付き合って曲を暗譜しているそうなんですよ」
水野谷は圭を見る。
「暗譜しているって言ったって。やるつもりもなかったから、適当ですよ?それに、おれは歌うのは苦手で」
「そんなことないよ。素人のおれたちだってやってるんだもの。圭にだって出来るでしょう?」
「蒼……」
吉田も真剣だ。
「頼む!星野さんには世話になってるんだろう?その星野さんのピンチだぜ?なんとか手伝ってくれよ」
手を合わせられても困る。
水野谷も三浦も圭のことを見ていた。
なんとも断り難い雰囲気である。
彼はしぶしぶ頷いた。
「どうなっても知りませんよ?」
「じゃあ、いいってこと?」
「ええ」
彼を見守っていた面々は手を取り合って喜ぶ。
「じゃあ、星野の状態を聞いてから、もしどうしてもの時はお前に頼む」
水野谷は頭を下げた。
「分かりました。だけど、星野さんが平気ならおれはやりませんからね」
「それはもちろんだ。キミには失礼な話だけど、悪いね」
「構いません」
ピンチヒッターが決まれば、少しは安心だ。
ほっと胸を撫で下ろしていると、高田から連絡が入った。
「おれだ。どうだ?……そうか。分かった。じゃあ、星野のことは頼む」
受話器を下ろす様子を見守っていると、水野谷は声を低くした。
「やはり無理みたいだな。最近、劇の練習とかで酷使していたのだろう。本当だったら、数日前から痛んでいたそうだ。先生にもこっぴどく叱られて、今回ばかりは完全に数日の安静を言い渡されたそうだ」
前回のときは、安静にしろと言われていたのに。
結局は出てきてしまっていた星野。
あれから、しばらく調子はよかったものの、無理をしたのが祟ったのだろう。
誰か見張りをつけるようにと医師は言っていたと言う。
「星野さん……」
「昼行灯みたいな人ですけど、本当は人一倍頑張り屋なんですよね」
ぽつんと言った吉田の言葉が印象的だった。
「仕方ない。星野の無念は重々承知だが、おれたちはこのイベントを成功させなくてはいけないのだ。王子は関口で行く。王子の衣装直しを早急に手配しろ」
水野谷の言葉に、三浦は慌てて衣装を依頼していた業者に連絡を入れる。
大至急、来てもらって彼の寸法を測らないといけない。
「なんだか、大丈夫かな?」
バタバタと始まった事務室内。
圭は不安そうだ。
「大丈夫だよ。うん」
蒼の言葉に曖昧に笑ってみせる。
専門外のことでステージに乗ることほどの不安はなかった。
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