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89.灰かぶり姫7
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夜。
リハーサルにやってきた圭一郎は面白そうに笑う。
「これは驚いたね。圭が歌って踊れるヴァイオリニストだったとは……」
「バカにすんなよ!おれは頼まれたからやるだけで……」
事情を聞いた彼はすぐさま、事務室で衣装合わせをしていた圭の下にやってくる。
紺色のベルベットの上着。
王子様と言うと、真っ白いタイツみたいなイメージがあるけど、今回はベルベットのモーニング仕様だ。
星野がああだこうだと文句を言って、タイツが却下になったためである。
確かに。
星野の白タイツは残念な結果に終わる可能性がある。
水野谷も同感だったらしかった。
蒼はソファに座って圭の姿を眺める。
こうして見ると、本当にいい男だと思った。
「蒼はだんな様を見てうっとりしてるぞ」
頬杖をして、ぽやっとしているのを尾形に見られて茶化される。
「ち、違……」
「顔赤くなっちゃって!」
「だから……」
ピュウピュウと口笛を吹く尾形。
蒼は慌てて逃げる尾形を追いかける。
「みんなの衣装合わせは終わっちゃったんですか?」
衣装の業者さんに直しをしてもらいながら、じっとしている圭は声を上げる。
「もうとっくに終わってるよ」
氏家は愉快そうに笑う。
「しかし。今年は気持ちが悪いものがたくさんみられるから愉快だぞ」
「ひどいですよ。人事だと思って」
気持ちが悪いのは自分ですと認めているのか。
高田が口を挟んだ。
「衣装を着てリハーサルをするのは明日だ。大丈夫かな?」
水野谷がねぎって手に入れたねずみの耳を付けた吉田は嬉しそうに笑う。
「おれはねずみでよかった~。結構、めんこい」
鏡で自分を見て「かわいい」と言っている時点で救い様がない。
圭は笑ってしまう。
「早く、高田さんたちのドレスみたいな」
「そんなこと言って~。遠まわしに言っているけど、本当は蒼のが見たいんだろう?」
それはそうだ。
蒼はどうなるのだろう?
圭はにんまり笑う。
「あー!やだやだ。こっちにも嫌な奴がいるぞー!」
一通り逃げ回って、戻ってきた尾形は高田の言葉を聞いてピュウピュウと口笛を吹いた。
「まるで中学生の文化祭だな」
ソファで黙って聞き入っていた圭一郎は苦笑する。
衣装担当の女性は苦笑している。
なんだか今日は大人しい。
この男が、いるのかいないのか分からないほど静かにしているなんて珍しいことである。
「疲れているんじゃないのか?今朝、日本に帰ってきたんだろう?」
一通りの寸法あわせが済み、圭一郎の向側に腰を下ろす。
「圭がおれのことを心配してくれるなんて嬉しいねぇ」
「茶化すな」
目元を押さえ、ため息を吐く圭一郎。
「少し休めよ。練習まで時間はある」
「いや。平気だ」
「そんなこと言わないで」
二人が押し問答をしていると、ステージ構成の打ち合わせに行ってきた有田と水野谷が帰ってきた。
「どうした?」
水野谷が声を上げる。
「いや。疲れているみたいだったから」
有田は慌てて圭一郎に駆け寄る。
「休みましょう。マエストロ」
「いや。いいって」
「いけません」
彼はきっぱりそう言い切って水野谷を見る。
「どこか横になれる場所がありますか?」
「ええ。狭いですが、仮眠室が……」
「貸してください」
「どうぞ」
三浦は慌てて立ち上がって、有田と圭一郎を誘導する。
新人としての役割であることを認識しているようだった。
三浦もしっかり星音堂職員になりつつある。
「大丈夫かな?」
「無理なスケジュールばっかり組むから。自分で自分の足引っ張ってんだよ」
圭は腕組をして見送る。
「大丈夫だ。あいつ。丈夫なことだけが取り得だから」
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