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91.家族に病人がいるということ3
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東京の人の熱気にはいつまでもなれない。
どこを見ても人、人、人。
本当に息が詰まる。
蒼と過ごしているあの場所が懐かしい。
少し郊外に出ると、青々とした森林や田んぼが見える。
昔は、田舎くさいのは嫌いだったが、自分も年をとってきたのだろうか?
青々した木々や畑、田んぼのような田園風景が一番落ち着く。
人の群れはこりごりだった。
「今日の打ち合わせは。最近売り出し中の指揮者、金子祐(かねこたすく)との打ち合わせになるから」
「新人か」
「いろいろ苦労している人みたいだけど。急に湧き出てきて。彗星のごとくって形容詞されているみたいだよ」
「日本のマスコミはそういうスターをでっち上げるのが好きだからな」
「そうだね。経験者は語るか」
「おれは!」
そういうのが嫌で、マスコミの仕事を極端に断っていたせいで、今では過去の遺物扱いだろう。
一時、ゼスプリの受賞後はちやほやされそうになったことを思い出す。
自分はそういうでっちあげの地位は要らないのだ。
きちんと自分の実力で認めてもらいたい。
そのためには、こんな小さな島国ではダメなのだ。
日本を拠点にしつつも、世界各国での活動を企画している圭。
クラシックをよく理解していない民族の中で認められてもなんの足しにもならないと思っているところだ。
二人が信号機で待たされる。
ぼんやり頭上に掲げられているモニタを見ているとワイドショーが流れていた。
主婦にとったらお友達のワイドショーかも知れないが、圭からしたら下らないゴシップ番組だ。
見たこともない。
休んでいる間も、昼ドラにははまっていたものの、ワイドショーだけは好きになれなかった。
どうでもいいニュースを大げさに報道する。
芸能人のプライベートなんかどうだっていいじゃないか。
人には興味がないから。
だけど、隣にいる高塚は面白そうに見ている。
「へー。あの子、彼氏いるんだ。真夜中の逢瀬だってさ」
「お前ね。おばちゃんみたいなこと……」
そこまで言いかけて、ふと視線を止める。
そこには精悍な顔立ちの男がいた。
彼の右上に流れるテロップには『新星クラシック界の王子、イケメンマエストロ金子祐』と書いてある。
ああ。
この男が。
巷でちやほやされている男か。
『金子さんの目標はなんでしょうか?』
アナウンサーの問いに対し、金子は堂々とした感じで答えている。
『目標?目標なんて特にはありませんよ。自分は自分の音楽を作るまで。日本全国の人を感動させるのが自分の使命です』
「圭くん、信号」
いつの間にか信号が青になっていた。
はっとして歩き出す。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫」
大丈夫。
そっか。
金子祐か。
悪い男ではないだろうな。
そう思う。
なんとなく、自分に似た感覚を覚えただからだ。
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