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91.家族に病人がいるということ7
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指定された3階の手術室へ直行する。
その場所に行くと、見慣れた男が顔を上げた。
有田だ。
「有田さん」
圭の存在に気付き、彼はまっすぐに寄ってきた。
彼も疲れているのだろう。
心労の色が濃い。
いつもの切れは失われていた。
「すみません。圭くん。朝早くから疲れたでしょう」
「いえ。こちらこそ。すみません。家族であるおれたちが遅くて」
「いいえ。そんなことは。蒼ちゃんもすみません」
「すみません。おれまで来てしまって」
三人で挨拶をしていると、家族控え室からかおりが顔を出した。
一人で不安だったのだろう。
彼女は圭の顔を見ると、わっと走ってきて泣き出した。
「圭!!」
「母さん。しっかり。どうしたの?」
しかし、かおりは泣きじゃくるばかりで話しがよく分からない。
有田は困った顔をしてから口を開いた。
「本来ならば、わたしなんかは病状の説明には入れないのですが。かおりさんの立っての希望で同席させていただきました」
「それで?」
「お父様のご病気は解離性動脈瘤だそうです」
とは言われても。
なんのことやらさっぱりだ。
圭と蒼は顔を見合わせる。
「私も詳しくはありませんが……。心臓から出ている大きな動脈、この動脈は何層かになっているようですが、その血管に亀裂が入っているので、血管自体を人工のものに交換する手術を受けている最中です」
「さ、最中って。まだ手術しているんですか?」
蒼は訊ねる。
「ええ。時間で言うと12時間くらいはかかるといわれています。なにせ、全身に血液を送っている要の血管なので。そこを交換するとなると、心臓自体を一旦止めて人工のものに置換をして対処されているそうです」
「そんな大手術なんだ」
圭は黙って聞いている。
「合併症としては、心臓を止めることでの血流障害や、突然の手術で本人が目覚めたときに暴れる可能性もあると言うこと、その他もろもろ、手術に伴ってなにかしらのことがあれば術後に説明をくれるとのことでした」
大丈夫だろうか?
本当に大変なことだったのではないか?
「ともかく。我々は待つことしか出来ません」
有田の言葉は現実的で、気持ちが沈む。
側で泣いているかおりも不憫だ。
「朱里は?」
圭は有田を見る。
「彼女は現在、フランスに留学中です。こちらには向っているそうですが、到着はいつになるか」
「留学!?」
圭はびっくりする。
家族なのに初耳だ。
「彼女も結局は音楽を取ったようですよ」
そうだったんだ。
あの幼い感じの朱里が思い出される。
決断は大変なものだったろう。
よく選んだものだ。
しかし、そういういい方向に向っている矢先にこんなことになるなんて。
有田、圭、蒼は黙り込む。
圭に肩を抱かれたかおりの鳴き声だけが響いていた。
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