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92.家族で温泉旅行1
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圭一郎の入院生活は順調だった。
元々、体力があったようで、回復の力は強く、医師たちも目を見張るようだった。
マスコミも最初の内は騒いでいたものの、そう長く報道する内容でもない。
日本のニュースは移り変わりが早いから。
圭一郎の退院は手術から1ヵ月半後であった。
彼は少し自宅で療養し、調子を取り戻してから温泉旅行に行くと騒いでいた。
そして、結局、温泉旅館を確保したのは有田である。
彼はここのところ圭一郎の仕事の調整で世界中を駆け回り、疲労困憊な状態であった。
旅行の件でと都内で面会した圭は、あまりのやつれように気の毒になってしまった。
「有田さん。温泉は本当に行かなくていいですよ。むしろ、その間はおれたちが面倒みますから。有田さんはゆっくり休んでもらったほうがいいと思います」
彼を除け者にするとかそういう意味ではない。
心底、そう思ったのだ。
コーヒーを口にして、彼は苦笑していた。
「仕事のキャンセルなどは自分の仕事の範疇ですから。心配していただかなくても大丈夫でよ」
「でも。旅行は別問題ですよ。予約までしてもらったんだから。後はおれたちでなんとか出来ます」
世界中で数年先まで引っ張りだこの圭一郎の仕事をキャンセルして回ることは容易なことではない。
そのことは、自分がよく知っている。
「有田さん。本当に大丈夫ですから。奥さんのことも大切にしてあげてください」
無意識の内に、視線は彼の左手薬指を見てしまう。
彼もそれに気が付いて更に苦笑した。
「そうですか。それじゃあ、今回は圭くんのお言葉に甘えて。休暇をいただきましょうか」
「休暇ですからね。仕事はしないって約束してくださいね」
「分かっております」
彼は少しほっとした顔をしている。
彼は彼なりに頑張っているのだなぁと圭は、つくづく思う。
「旅行の前後1週間は休みって言うことにします」
「そんなにですか?」
「有田さんの奥さんにみっちりお話しておきます」
「圭くん……変わりましたね」
「そうかな?」
「なんか蒼ちゃん化していますよ」
蒼化??
なんだか吹き出してしまう。
「一緒にいると似るんですよね……」
有田は笑っている。
「小さい頃から見ていますけど……。本当に」
「どういう意味ですか?いいってこと?悪いってことですか?」
「いいって意味ですよ。おせっかいおばさんみたいになっています」
「おばさんって……確かに。蒼は小さいおばさんだな」
二人は顔を見合わせて笑う。
「しかし、圭くんは家の妻の連絡先知らないじゃないですか」
「そうだった」
「そういうはったりをかますところも蒼ちゃん化ですね」
「そうかもしれないね」
コーヒーブレイクを楽しみつつ。
その後、圭は有田の妻の話しを延々と聞かされることになる。
プライベートはあんまり話さない男だと思っていたが……。
やっぱり自分の愛妻のことを話したいと言うところなのだろう。
圭はなんだか愉快な気持ちになった。
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