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92.家族で温泉旅行6
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「ごめん!父さん。勝手にこんなことになっちゃったから。きっと、あちらの親御さんにもどんな顔されるか分からないし。きっと父さんたちに迷惑をかけると思うんだけど」
「確かに。我々の世代では、順序が逆になるのは好ましくないことだが……ただ」
「ただ?」
そこに食いついたのは蒼と陽介である。
熊谷家初めての出来事だ。
二人は、親たちがどんな対応をするのか興味津々である。
「ただ?」
蒼は栄一郎を促す。
彼は、少し恥ずかしそうに。
そして満面の笑みを見せた。
「おれもおじいちゃんになるのか!」
隣で彼を見上げていた空はぷっと吹き出した。
「そしたら、私はおばあちゃんですよ」
「本当だ。おれたちも、とうとうそう呼ばれるときが来るのか」
二人は愉快そうに笑っている。
「早く会いたいわ。可愛い孫に」
「まだ先だよ。気が早いな。二人とも」
啓介は苦笑した。
そんな微笑ましい様子に、蒼と陽介も顔を見合わせる。
だけど。
だけど。
蒼は和気あいあいあとなっている部屋を後にする。
そして、そっと廊下に出て、壁に背中をつけた。
本当に罪深いことなのだと実感する。
自分と圭との関係は。
自分は、空に、血の繋がっている孫を見せてあげることが出来ない。
法律上、啓介は自分の子どもかも知れない。
だけど。
だけど。
本当に血が繋がっているのは自分だけじゃないか。
その自分が、世間一般の常識から外れた行動をしているのだ。
彼女にはそういう幸せを味わわせてあげることが出来ない。
当然のことなのに。
なんだか事実を突きつけられたようでショックを受けた。
「はあ……」
大きくため息を吐くと、視界に人影を確認した。
はっとして顔を上げると、隣の部屋から圭が出てくるところだった。
「圭」
「蒼」
彼はほんの数分見ないだけで、なんだかげっそりして見えた。
「どうしたの?」
「あの人たちといると本当に疲れるんだけど」
真面目な顔でそう呟く彼を見て、思わず笑ってしまった。
「なんで笑うんだよ」
「ううん、ううん。なんでもない」
なんでだろう?
今までの自分には家族と言う存在しかいなかったのに。
家族と過ごす時間よりも、こうして圭と、蒼と二人で過ごす時間がこんなにも落ち着くなんて。
蒼はふと思う。
ああ、そうか。
それだけ。
自分たちは自分たちなりに家族と言う関係を形成しているのかも知れない。
不安定な立ち位置にいたせいで、なかなか家族に馴染めなかった。
家を出て、家族のありがたさ、少しは分かった。
職場での仲間との関係にほっとして。
母親が戻ってきて。
やっぱり家族はいいかな……?って思ってもいたけど。
だけど。
やっぱり。
やっぱり。
圭が一番。
この時間が一番なのだ。
お互い、今の家族はこの人。
そう思っているからこそ、こうして居心地がいいと思えるのかも知れない。
そう気付くと、なんだかおかしい。
笑ってしまう。
圭も同じようなことを考えていたのか、顔を見合わせて笑う。
「おいおい!食事の時間なんですけど?」
いい雰囲気でいたのに。
啓介が呆れた顔を出す。
「啓介」
「いちゃいちゃはあっちでやってくれ」
「誰がいちゃついているって!?」
陽介が顔を出す。
「いくら家族旅行だからって、そういうことは本当に、本当にやめてもらえませんかね!?」
半分は怒っている。
陽介は圭に詰め寄った。
「陽介。いいじゃないの。今回はのんびり温泉旅行なんだから」
栄一郎が間に入るが、そんなことでは納まらない。
陽介は、明らかに敵意むき出しでふんっと踵を返す。
前途多難の旅行である。
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