アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
94.夢見たものは1
-
翌日。
日曜日だった。
日曜日は出勤している職員はいつもの半数だ。
今日の当番は蒼と、星野と、吉田。
「しっかしさー。こんなにも見事にキャンセルのオンパレードって珍しいよな?」
吉田は蒼のほうを気にしながら星野を嗜める。
「星野さん!」
「本当にすみません。おれのせいで……」
「だ、か、らー。お前のせいだって誰が言ってるわけ?」
星野はあきれる。
「言っちゃ悪いけど、お前ほど、この星音堂ヲタクはいないと思うぜ?」
ひどいいいようだ。
「ヲタのお前が説明してもダメだったんだ。おれらもレベルの低い最低職員だろうぜ」
「星野さんってば」
吉田は笑ってしまう。
蒼を元気付けようとしているのだろう。
素直に言えばいいのに。
「蒼。気にするなよ。たまたまお前が当たっただけだろう?」
「そうですけど。でも、おれがもっと上手くやっていたら」
「だから、もしもの話しなんかしたって仕方ねーだろう?音楽家が求めるような情報を与えられなかったのは、おれたちみんなの落ち度だ。そこまで話しをつめて考えたことなんかなかったじゃねーかよ」
「それはそうですけど」
吉田も頷く。
「きっと、おれたちが今までマニュアルで説明していたような、建物の上辺だけ説明しても仕方がないんだよ。音楽家の人がなにを聞きたいかをきちんとリサーチしていかないと」
「いい機会だったんだよ。おれら、ぬくぬくとやってきたからさ。行政管轄のホールなんてそうそうないぜ?赤字とか黒字とか、切羽詰って考える必要もなかったからな」
「それは……」
そうかも知れない。
「ここだけの話し。星音堂も外に出されそうだぞ」
「え?」
吉田と蒼は顔を見合わせる。
「それって」
「それってそういうことだよ」
星野は頷いた。
「いつまでも逼迫した財政で、こんなアマチャン施設を抱えていられないだろう?早く外に出して、切り離したいと思うのは普通の話しだ」
吉田と蒼は顔を見合わせる。
「おれたち、どうなっちゃうんですか?」
「おれの見立てだが……。これから本決まりになれば、どこの企業に委託されるかが検討されるし。その企業の運営の仕方によってどうなるかってところだろう。ただ、地方の一企業では維持するのも大変だし。全国展開されている企業に引き取られるのかどうか」
「そんな……」
「そうなると、おれたちの身分って……」
「そうだなあ。公務員として本庁に戻るか、それともここに残るかって感じかなあ?」
「残るか本庁かって、結構究極の選択ですよね?」
吉田は顔色を変える。
蒼はじっと彼の顔を見た。
「だって、そうだろう?本庁に今更?本庁を経験したこともないおれたちが、あそこに馴染めると思うか?」
吉田からしたら、安齋の姿をいつも見ているのだ。
本庁の大変さは身に染みている。
「かと言って、せっかく公務員としての道を選んだのに。一般企業の身分になってしまうのも将来に不安があるし。どんな待遇が待ち受けているのかも分からないですよね」
そっか。
そういう意味か。
蒼は考え込む。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
719 / 869