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94.夢見たものは3
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むうむうとなって帰宅した蒼。
「明日、東京に行く」
突然の申し出に、圭は苦笑した。
「どういうこと?」
「だから!東京に行くの」
「それは分かったから」
圭は蒼を見る。
「きちんと話して」
「おれ、金子に会ってくる。そして、星音堂へのコメントを撤回してもらってくる」
「本気?」
「本気だよ!ウソ言ってどうするの」
蒼の決意は固いようだ。
「おれも行くよ」
「圭も?なんで?」
「なんでって」
おれだって、あいつには一言、言ってやりたいことがあるんだよ。
圭は言葉を飲み込む。
蒼にああだこうだと言うつもりはないからだ。
自分の問題だから。
「おれも金子に用事があったところだったから」
「本当?」
本当は一人では心細かったから。
圭が一緒に行くと決まって、なんだか気が抜けた。
「なに気抜けてんの」
「ううん。ううん。ありがとう」
圭も用事があることには違いないが、一緒に行ってくれるといわれて嬉しかったのが本音だ。
「よっし!頑張るぞ!汚名返上だ!」
「汚名って。金子が勝手に中傷しているだけでしょう?星音堂サイドに落ち度はないよ」
「圭」
「星音堂がどんなに素晴らしいホールかって。使ったことのある音楽家ならみんな知っていることだよ」
「でも」
「世論はダメだ。流されやすい。だからこそ信用もならないものなのだろうけど。まあ、仕方ないだろう。世の中、そういう仕組みになっているんだ。世論に流されて人生が狂ってしまう人たちもいるくらいだからね」
「そうだね」
全く、その通りだ。
こんなことに踊らされて。
バカみたい。
自分たちは自分たちなりの仕事をしてきたではないか。
それのなにがいけない?
星音堂を利用してくれた音楽家は皆、口をそろえて「いいホールだ」と褒めてくれたではないか。
そんな人たちの声を信じずに、顔も見せずに攻撃してくるネットや電話の輩の話しばかり聞いていてはいけない。
はっとした。
「おれ、頑張る」
蒼は余計に息巻いて興奮している。
圭は苦笑した。
「本当に。敵わないな。蒼には……」
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