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94.夢見たものは6
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「おれたちは、お客様からお金を取ってきていただく仕事だ。自分の演奏には責任を持たなくてはいけないんだ。安易な気持ちで、やってみてよかった、なんて失礼なことをプロが出来るわけないじゃないか」
蒼はちょと面食らう。
ふざけた男なのかと思っていたから。
「だから、おれは演奏の前には必ず、そのホールの下見に行く。ホールの質は職員であらかた見当がつく。熱心な対応をしないホールはホール自体の管理もずさんだし。内容もお粗末なことが多い。実際に演奏してからでは遅いんだ。おれのポリシーは曲げられない」
そう。
金子の思うことは最もだと圭は思った。
「確かに。おれの発言は不謹慎だったかも知れないけど。おれはおれの信念で動いている。おれの発言を聞いて、どう判断するかは受け取り手の問題だ。おれが全ての責任を負うってことは出来ないね」
金子の言い分は筋道立っている。
蒼は反論できずにじっとしていた。
なにか発言すべきか?
そういうときではない。
圭はただ黙って、蒼の出方を見守った。
「前回はおれの説明が不足でしたし、勉強も足りませんでした。本当に申し訳なかったと思っています」
蒼は突然謝罪した。
高塚は圭を見る。
圭はただじっとしていた。
「おれは勘違いしていたみたいです。金子さんが、ああいった発言をしたのには理由がある。その理由はおれの対応の悪さです。だから、そのことについては謝罪したいと思います。だけど、だけど!本当に素晴らしいところなんです。おれは心の底から星音堂が好きだし、あのホールに一生を捧げてもいいって思っています」
蒼の一生がどれほどのものか。
他人からしたら計り知れないものであるが……。
金子はふと思う。
この男は、ただのおバカだと思った。
まっすぐに、あのホールのことだけを考えている。
自分と一緒かな?
自分だってそうだ。
思うように行かない。
無名の頃は好きな曲も演奏できたし、自分の好きな演出も出来た。
だけど。
売れれば売れるほど、イメージが大事とか言われて。
結局は、自分の自由などなにもないのだ。
ささやかな抵抗だ。
自由な人を見ると、ふと意地悪したくなる。
本当は知っていた。
星音堂を案内するときの蒼の目。
きらきらしていた。
本当に好きなんだなって。
羨ましいと思った。
ねたましくも思った。
それは関口圭と同じ目だったのだ。
彼もそうだ。
音楽に対する思いは同じなのに。
方や自分はマスコミ受けするように操作されているのに。
圭は自由そうだった。
父親に似ていた。
関口圭一郎もそうだ。
自由に自分の思うとおり音楽に取り組んでいる。
本当に羨ましかったのだ。
「おれは」
小西の顔がちらっと見えたけどお構いなしだ。
彼にも聞いてもらいたいと思ったから。
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