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96.二人旅3
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目的のホールに到着したのはお昼ちょっと前だった。
井の中の蛙とは自分のことだろうと蒼は思う。
いくつか、星音堂以外のホールは見たことがあったが。
こんなに素敵なホールは見たことがなかった。
外観はスタイリッシュなつくり。
海の見える立地は解放感にあふれていた。
山間に住んでいる蒼にとったら、目の前に海が広がっていることだけで大感激なのに。
ホールは真っ白な外観で、優雅にたたずんでいた。
「大きいっすね!」
三浦は感嘆の声を上げる。
蒼も同様だったが、先輩として少し思いとどまった。
「本当にね」
「早く中に入りましょうよ!」
興奮してしまっているのか。
三浦は仕事だっていうことを忘れていそうな勢いだ。
ばたばたと荷物を持ってホワイエに滑り込む。
今日は、ホールに直行して、研修が終わったら予約していた旅館にまっしぐらだ。
大きな荷物を抱えているから目立つかな?
そんなことを考えて中に入るが、心配する必要はなさそうだ。
中にはカフェがあったりして、ホールというよりは駅のようだった。
ホールに直接関係のなさそうな若い女性や、サラリーマンの男性、老若男女、さまざまな人が行き来していた。
星音堂の閉鎖的なそれとはまったく違った。
正面を入ると、大きな階段があり、宝塚のイメージだ。
白い大理石のホワイエを忙しそうに歩いていく人や、ベンチの腰を下ろしてパソコンで仕事をしている人を見て蒼は言葉もなかった。
開放的。
そして自由な空間だ。
なにものにも束縛されない。
素晴らしいところだと思った。
二人でじっとしていると、「あの、星音堂の方ですか?」とよく通る声が響いた。
はっとして顔を上げる。
そこには、若い少しずんぐりっとした愛想のよさそうな男性が立っていた。
「え、ええ。はい!」
蒼は我に返って答える。
「よかった。お待ちしていました。当ホールで研修を担当させていただきます南と申します」
「あ、あの。よろしくお願いします。星音堂からきました熊谷と……」
「三浦です」
「よろしくお願いいたします」
南はぺこっと頭を下げた。
同じ日本人なのに。
なんだか違う人種に見えた。
スーツだって、なんだかおしゃれだ。
自分たちの着ているスーツはなんとなく田舎くさくて恥ずかしく感じられた。
「荷物をどうぞ」
「すみません」
南に案内され、二人は会議室に通された。
小さい規模だが、中の装飾もこっていた。
ただの殺風景な会議室ではない。
窓枠を一つとっても、バロックな感じだったし、カーテンも重厚なデザインでお城を連想させた。
「いっぱいですみません」
「いえいえ。宿泊ですもんね。大変でした」
「ありがとうございます」
大きい荷物をそこに置き、蒼と三浦は当座必要なものを持つ。
蒼はデジタルカメラ。
三浦はボイスレコーダーだ。
しっかりみんなに伝えないと。
荷物を片づけて、それから南に連れられて、二人は事務所に顔を出した。
ここのホールを管理している職員は総勢、30名はいるだろうか?
蒼と三浦は目を白黒させる。
「みなさん、すみません。本日から二日間、当ホールで研修をされる熊谷さんと三浦さんです」
南の声に、一同は手を止め、顔を上げる。
「こんにちは。熊谷と三浦です。星音堂からきました。本日より二日間、どうぞよろしくお願いいたします」
頭を下げると、拍手が巻き起こる。
「どうぞ、よろしく」
集団の中から出てきた初老の男がここの管理者らしい。
「ホール長の中田です」
「よろしくお願いします」
「お二人の担当は南になります。なにかありましたらこのものに申し付けてください」
「ありがとうございます。南さん、よろしくお願いいたします」
蒼は二人にぺこぺこ挨拶をする。
「そんなに気を使わないでください。研修なんていうのは名目ですよ。当ホールをお楽しみいただけると嬉しいです」
南はにっこり笑顔だった。
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