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96.二人旅6
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大変な研修になってしまったと自分でも思った。
せっかく、蒼と二人で泊まれる幸せな研修になるはずだったのに。
高齢の医師がおいて行った経口補水液を飲まされて、トイレに行ったり来たりして、体力は奪われる。
今日一日、研修だったせいもあってよけいに疲れが出ていた。
そうしている内に、うつらうつらしてしまったのだろう。
隣のベッドで寝ている蒼の頭が見える。
三浦は寝たり起きたりで、夜中にも目が覚めたようだった。
おなかの調子はだいぶよくなってきているが、本調子ではない。
少し熱も出てしまっているようで、ぼんやりしていた。
「さんざんだよー……おれ」
もしかしたら、もしかして……。
なんやかんやあったりしたら、どうしよー!……なんて思っていた自分があさはかだ。
それ以前の問題。
本当にがっかりする。
大きくため息を吐いて、トイレに起きだす。
動くと刺激になるのか、おなかが痛んだ。
「イタタタ……」
とほほである。
三浦はトイレに行き、顔を洗う。
このまま風呂に入らないわけにもいかないし。
部屋を覗くと、蒼はぐっすり眠っているようだった。
タオルを取って、シャワーを浴びる。
蒼だって疲れただろう。
今朝は早起きだったし。
慣れないところでの研修だし。
いろいろ気張ってやっているのがよくわかっていたから。
悪いとは思っていた。
だけど、結局、すっごい迷惑をかけてしまったようだ。
医者が来たときも、なにかと介助をしてくれた。
蒼は、どうやら医者に慣れているようだった。
どうしてだろう?
蒼の過去なんて、三浦にはよくわからない。
明日。
機会があったら聞いてみよう。
明日?
ああ、そうか。
もう今日か。
今日の夜には帰らなくちゃいけない。
もう、二人で過ごす時間は少しなのだ。
あっちに帰ったら、蒼は圭のところに帰ってしまうのだ。
なんだか、がっかりした。
今だけなのに。
自分が独り占めできるの。
鏡に映った自分は、青ざめていて情けない顔をしていた。
本当にダメな男!
三浦はがっくりする。
肝心な時にこんなんで、いったいどうするんだよ?
自問自答しても始まらない。
ダメな男だからこそ、女子は支えてくれていたのかもしれないな。
今となっては、今まで付き合ってきた女性たちはしっかりものばかりだったかもしれない。
そう思う。
「はー……」
時計の針は3時を示している。
そろそろ寝ないとだけど、今までうつらうつらしたせいで、寝られる気がしない。
あったかいお湯を浴びて、少し気分も落ち着いたし、おなかも落ち着いた様子だ。
タオルで頭を拭きながら、部屋に戻る。
しんっとした室内。
蒼の寝息だけが聞こえている。
自分にいらっとした。
情けない!!
でも、でも。
話してどうする?
蒼の気持ちは圭に向いているのは間違いがないんだから。
自分が自分の気持ちを打ち明けたところで、どうなるというのだ。
蒼を苦しめるだけだ。
自分は、そのあと、どんな顔をして蒼と仕事をすればいい?
黙っているしかないのだ。
自分の気持ちは。
だけど、だけど。
それで、本当にいいの?
本当にいいの?
情けないよ。
自分。
三浦はなんだか、泣きたくなってきた。
人を好きになるのって、なんでこんなに切ないんだろう。
社会的なこととか、仕事のこととか、そんなしがらみなくなってしまえばいいのに。
自分と蒼が同じ職場にいるから悪いのだ。
離れてしまえばいいのに。
離れてしまえば。
そしたら、平気で蒼に自分の気持ちを打ち明けられるのではないだろうか?
本当にそうなの?
環境のせいだけ?
意気地がないだけなのではないか?
わからない。
なにもわからないのだ。
自分が蒼を好きだという気持ちからも逃げ出したいくらいなのに。
そのほかのことまで直視できる勇気がないのだ。
だから、迷ってしまって。
どうしていいのかわからなくなってしまうのだ。
苦しいな。
そう思う。
幸せそうにむにゃむにゃしている蒼を見ると、どうしたらいいのかわからなくなってしまうから。
三浦は、そっと蒼のそばに寄る。
彼が起きる気配は見られない。
「蒼ちゃん。おれはどうしたらいいの?」
そっと顔を近づけて、蒼の頬に唇を寄せる。
あったかい。
いい匂いがした。
「んー……。やんないよ。けだも」
蒼は三浦のことを手で払いのけて、ぐるんと寝返りを打った。
「け、けだも?」
けだもって、猫か!?
圭に間違えるならまだしも。
けだもと間違えられるとは。
なんだか吹き出してしまう。
「蒼ちゃんにはかなわないな」
おれの気持ちなんか、きっと一生伝わることはないのだろうな。
三浦は自嘲する。
一緒にいればいるほど、胸は苦しくなって、自分の気持ちを突きつけられる。
一緒にいる時間。
減らさないとダメだな。
大きくため息を吐いて、三浦はベッドにもぐりこんだ。
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