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96.二人旅8
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蒼と三浦の研修はあっという間に過ぎ去った。
帰宅した三浦には疲れしか残っていない。
へとへとになって帰ってきた彼。
蒼は、すっかり研修疲れだと思っている様子だが、そういうわけでもないのだが。
蒼の帰宅を待ちわびていた、圭が改札口でけだもとお待ちかねだった。
けだもは散歩紐を付けられている。
猫もお出ましということで、周囲にいる人から奇異の目で見られていたがお構いなしだ。
長い階段を下り、改札口のところにいる圭を見つけた瞬間、蒼は笑ってしまった。
本当に音楽家だからなのか?
それとも、あの関口圭一郎の息子だからだろうか?
周囲の目を気にしない、突拍子もないことをしでかすのは、親からの譲り受けたものなのかもしれない。
「蒼!」
大きな声で嬉しそうに手を振っている彼。
蒼も苦笑して手を振返した。
その隣にいた三浦。
げっそりしていたものの、圭のお出ましとなったらしゃきっとしないわけにはいかない。
幾分、緊張が走ったが、ここのところの体調不良と、気疲れとで、なんだか力が入らなかった。
そんな彼の様子を見て、圭は一瞬にして察する。
彼がどんなにひどい目にあったのか。
わざとじゃないことは重々承知だ。
蒼はそんなに性格が悪いわけでもないのだから。
だけどきっと。
三浦の気持ち。
圭には痛いくらいわかる。
きっと。
彼にとったら辛い旅になったことだろう。
ぎゃふんと言わせてやろうと思っていたのに。
そんな気も失せた。
蒼を好きなもの同士。
同志に感じられた。
「大変だったですね」
思わず出た言葉はそれだった。
蒼はきょとんとして圭と三浦を見る。
なんだか三浦は泣きそうになっていた。
お互い、大した言葉も交わさないけど。
気持ちは通じたらしい。
蒼にとったらキツネに抓まれたようだったが、妙に意思疎通がうまくいっている二人を見ると、なんと言葉を発すればいいのかわからずに、ただ黙ってみているしかなかった。
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