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97.マエストロの復活2
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結局。
水野谷の熱意も伝わったのか?
羽根田のスタッフに星音堂のスタッフも混ぜてもらうことになった。
業務に支障がない程度でだ。
ステージのマネジメントまではいかなくとも、大体の様子を見ることはいいことである。
前日のリハの日から、星音堂は貸切だ。
一般客の事務作業以外の仕事はないので、ほとんどの職員がそちらに回れるようになっていた。
星音堂の事務室に顔を出した担当者は、女性だった。
一同は目を丸くする。
長い髪を一つにまとめ、きりりとしたメガネをかけた女性は30台くらいであろうか?
黒いスーツを身にまとい、よく、映画かドラマで、できる秘書役の女優が装う格好だった。
顔も美人である。
少しきつそうな顔付きだが、化粧もばっちりで、ほころび一つない人だった。
「今回のプロジェクトの責任者を任されております、奥川未唯子(みいこ)と申します」
きりりとした顔に似つかわしくない、かわいい響きの名前に一同は苦笑する。
「本日から二日間、どうぞよろしくお願いいたします」
彼女は苦笑している男どもは関係ないとばかりに自分の挨拶を進める。
「こちらこそ。わたしたちのホールは古くなってきておりまして、最新の設備などがありませんが、みなさんが、よりよく仕事がはかどりますようにバックアップさせていただきますのでよろしくお願いいたします」
水野谷は決して、自分たちが勉強をするということは言わないようだ。
彼女のほうは、地方の一ホールのスタッフが……という視線だ。
しかし、マネジメントは彼女のほうが上かもしれないが、星音堂のことについては、自分たちがプロだ。
勉強をしつつも、自分たちの立場も忘れないようにすること。
水野谷の意向がしっかり伝わってくる挨拶であった。
「よろしく」
「よろしくお願いしますね」
氏家たちも口々に挨拶をする。
ぴっちりした奥川からしたら、だらしのない星音堂職員だろう。
彼女は踵を返して事務室を出て行った。
「怖い、姉ちゃんだな」
星野はふふっと笑う。
「あれくらいじゃないと。オーケストラとか、いろいろなマネジメントはできないんでしょう」
尾形もぽかんとしている。
「確かに。マエストロの秘書さんも怖いからな」
有田のことである。
蒼は苦笑する。
そんなに怖い人でもないけど。
ただ、それくらいじゃないとやっていけないんだろうな。
人の気持ちとかで揺れ動いちゃうと意向が定まらないし。
自分をしっかり持って、なおかつ、クライアントの要望をこなしていかなければならないから。
本当に大変な仕事なのだと思われる。
「畑は違うのかもしれない。でも、参考になることは多いですよね」
三浦がぽつんとつぶやく。
「そうだな。マネージャーのほうは、ホールを利用する人。こっちは提供する側だ。だけど、相手の手の内を見せてもらうことでこっちのありようも勉強になるのではないかな?」
氏家の意見に、一同はすんなり納得だ。
「頑張りましょう」
「はい!」
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