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99.訣別6
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星音堂との別れも、もちろんつらい。
つらいのだけれど……。
もっと、つらいことが待っていると思うと、胸がはち切れそうになる。
本当にこの選択でよかったのだろうか?
本当に……。
でも、自分のせいで厳しい境遇にさらされている圭を、傍で見るのはもっとつらい。
自分の都合だ。
自分がつらいから逃げるのだ。
圭がつらくなるからではない。
人のせいにしている。
いつもの悪い癖だ。
自宅の側に行くと。
段々、見慣れてきた黒い車が止まっていた。
約束の日だから。
静かに頭を下げる岩見。
蒼もつられてお辞儀をした。
死刑宣告された犯罪者みたい。
冤罪だ。
自分は悪くないのに……。
状況に抗うことができないのだ。
運命を受けるばっかりの心境だ。
蒼はそっと玄関を開ける。
古い軋んだ車輪の音が響いた。
「蒼?」
奥からけだもと圭が顔を出す。
圭は少し動揺した顔色だった。
「蒼?なんか、泥棒が入ったのかな?物がない……」
血相を変えていた圭は、ふと蒼を見て言葉を失う。
「なに?蒼?」
涙一杯。
ずいぶん泣いてきたから。
本当にひどい顔だと思う。
「蒼……?」
「ご、ごめん」
「なに謝ってんだよ」
「おれ、今までいっぱい圭に迷惑かけてきたけど。もうこれからはそういうこともないと思うから……。これで最後、だから」
「最後って……」
けだもは、いつもと違う様子に不安を覚えているようで、大きな声で鳴き出す。
「にゃおう!にゃおう!!」
「今まで、本当にお世話になりました」
「な、なんだよ。それ。お別れみたいな挨拶じゃん……」
「お別れなの……」
「は?」
ぐじゅぐじゅの蒼は、なにを言っているかわからない。
圭はいらだった。
またか!
また始まった。
すぐに蒼はどっかに行こうとする。
自分の側にいなければならない人なのに。
この民主主義の国家で、人に指示されて動く人間はそうそういない。
組織の中ですら、自分を主張する時代なのに。
この人間は、自分の気持ちに反して、人の気持ちを勝手に推測して、勝手に解釈して、勝手に思い込みをして動いている。
圭が、一番嫌いなところ。
みんな大好きだけど、そこだけは嫌い。
そして、それはたまに周期でやってくる。
それがまた来たのだ。
今度はどこに行く気だ?
なにがあったのだ?
圭は苛立つ気持ちを抑えて、蒼に声をかける。
「蒼。いったい、どうしたの?」
「……」
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