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100.春2
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さまざまな情報収集をしてみて、わかったことは一つもなかった。
熊谷蒼の名前はネット上にも引っかかってこないし。
意図的に姿を消しているようにしか思えなかった。
そして、蒼が消えてからというもの、キャンセルがあった仕事が復活したり、大きい仕事の話が多くなってきた。
全部断っていたらきりがないと高塚にも怒られたが、これは圭の意地だ。
羽根田の影がちらつくと、絶対に受けないように高塚にもきつく話しておいた。
蒼は不本意かもしれないが、そんなおこぼれを頂戴するほど落ちぶれてはいない。
自分は自分のペースでやっていきたいから。
ただ、蒼がいなくなって、悪いことばかりあったとは言い切れない。
羽根田は国際的に活躍している日本の企業の一つである。
もしからしたら、蒼は海外にいるのではないか?
なんとなくそんな気がしていた圭は、自分も海外に積極的に足を運んで情報収集をしがてら活動を展開していた。
結果的には、圭の活動も活発になっていることは言うまでもない。
日本のクラシック界には、多大な影響を与える羽根田も、海外に出れば一企業である。
欧米の企業に比べると、文化的な貢献をしている部分は少ないものだ。
クラシックの発祥の地はヨーロッパである。
それだけの歴史のある場所で、日本の企業など新参者で大して重宝されない。
海外に出ると羽根田が関係しない仕事も多く、充実したものも多い。
自分がやってみたかったことも山ほどある。
最初は、日本にいる時間をなるべく長く……そう思っていたが、結局。
春を迎えるころには、圭はドイツを拠点にして活動をする状況になっていた。
蒼を忘れたわけではない。
蒼を探すことも忘れていない。
だけど、頑張って探しても、なんの手がかりもない状況で、圭にできることって、自分が活躍することくらいだったから。
自分が活躍して取り上げられることで、蒼も、きっとこの地球のどこかで、圭の活躍を目にする機会があるはずなのだ。
自分が元気にやっていることを見せて、蒼には安心してもらいたいし。
また、自分のことを忘れないでいてもらいたい。
もしかしたら、戻ってきてくれるかもしれない。
そう思えるからだ。
蒼に逢いたい。
蒼に。
圭は毎日、毎日。
そればかりを考えて暮らしていた。
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