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100.春4
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「ありゃ、心配だな」
星野の言葉に吉田も同感と頷く。
主語がないのに通じるのだから素晴らしい。
今、三浦は資料を持って、篠崎にオリエンテーションをしているところだ。
水野谷も年度初めの打ち合わせで本庁に出張中。
残っている職員たちは蛻の殻状態だった。
蒼が突然去っていったのは、残された職員からは結構ショックな出来事だった。
月日が経っても、なかなか気持ちは元に戻れない。
そこに現れたのが篠崎だ。
自分たちも動揺しているというのに、三浦の動揺は計り知れない。
「大体、三浦が直接担当になってしまうのはまずいでしょう」
尾形も不味いような顔をする。
「ですよね」
「三浦の動揺、見た?」
「見た見た。ありゃ、大丈夫かよ?」
高田も不安そうだ。
いつの間にか。
三浦が蒼を好きだったってこと、みんなに広まっている。
と言うか。
三浦が下手で。
蒼だけが知らないだけで、周囲の人はみんな知っていたのだから。
蒼が消えて、一番心配だったのは、もちろん圭だが、星音堂からしたら、三浦が身内みたいなもので、心配の種になっていたのだ。
「人生って酷ですよね」
「篠崎を見ながら仕事したら、どうしても蒼を思い出すだろうよ」
「辛い毎日ですよねえ」
吉田もしんみりだ。
愛する人がいなくなるってこと。
吉田にも経験済みのことだから。
その辛さ。
よく分かる。
「でも、あいつはあいつ、蒼は蒼じゃねーか。きっと三浦だって理解するって。今は外見に惑わされているかもしんねーけど。ガキじゃねーし」
星野は欠伸をする。
「星野さんってば」
「人の心配しているより、自分の心配しろよ。御嬢さん」
吉田はえ?となる。
「こんな時期に星音堂に入ってくるなんて本当に物好きだってことだ」
「は?」
尾形も首をかしげる。
「今度はおれらが決める番だろう?ここに残るのか、本庁に戻るのか」
星野の言葉に、一同の雰囲気が凍る。
「なんか、本格的にそうらしいからな。星音堂の切り離し」
高田は、腕を組んでうなずく。
「そうなんだ……」
「いなくなった人間とか、考える前に自分の心配ってわけだな」
氏家の言葉は胸に突き刺さる。
吉田は思う。
みんなどうするんだろう?
自分は?
どうなるんだろう?
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