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100.春5
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一方。
新人教育中の三浦は、相変わらず動揺していた。
「で、次のページを開くと、そこに書いて……。あれ?ない。書いてない。えっと、じゃあ、こっちかな?……ない、ないないない!」
一人でテンパっている三浦を見て、篠崎は苦笑する。
「大丈夫です。後で探しますから」
「あ、ごめん」
なんで後輩に気を使われなくちゃいけないのだろう。
しっかりしろ!
おれ!
三浦は自分に喝を入れる。
「先輩なんって言っても、おれだって本庁から移動して数年だし」
「三浦さんは本庁の何課にいたんですか?」
ふと篠崎が話題を変える。
「お、おれ?おれは長寿福祉課にいて……」
「長寿福祉課?」
「介護保険っていうの?年寄のことをいろいろ扱う課だよ」
「そうなんですね」
「ってかさ。篠崎は、星音堂に来ちゃってどうするの?」
「どうって……」
「だって、ここはもう来年にでも、市役所じゃなくなっちゃうんだよ?そしたらどうするの?」
「どうって……」
篠崎はにっこり笑顔で答える。
「おれは、星音堂に就職したかったから市役所に入っただけなんです。だから、別に。切り離されるなら、それで結構です。異動しなくてよくなるんですよね?一生。ここで働けるなら。もってこいです!」
なんてしっかりしている男なのだろう。
本当に蒼とかぶって嫌になる。
蒼も同じことを言いそうだ。
自分にはないこと。
なにかを大切にして、不器用だけど、自分に正直に生きている。
自分はどうなのだ?
合理的。
要領いいねって言われたって嬉しくもない。
自分に正直に生きなかったつけが回ってきているのではないか?
自分は。
なんで言わなかったんだろう。
突然のお別れだなんてひどい。
自分の気持ちを蒼に伝えていなかったせいで、余計、自分の中での折り合いがついていなかったのだ。
もやもやしている。
「そうなんだ……」
「あ、すみません。本当に生意気で」
篠崎はにこにこしている。
彼がなんだか疎ましく思えてしまう。
完全な八つ当たりなのに。
「あと、自分で読んでおいて」
「は、はい?」
三浦はとぼとぼと会議室から外に出た。
嫌な人間だ。
本当に。
自分が嫌になった。
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