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103.それぞれのこと3
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車に揺られていた。
目を閉じていると、なんだか頭がくらくらする。
毎日、毎日。
分刻みのスケジュールは厳しい。
夜は解放してもらえるとはいえ、考えることは山ほどある。
手元にあるタブレット端末に映る星音堂の姿を見て、蒼は大きくため息を吐いた。
もう、何度となくこのページを見ている。
毎日?
いや。
一日に何度も。
そして、圭のページも……。
高塚が始めた圭のオフィシャルホームページには、彼の活動が逐一書かれている。
それを見るのが楽しみな反面。
怖い気もした。
突然、飛び出してきたから。
圭はどう思っているだろう?
怒っているかな?
もう愛想つかされているかもしれない。
嫌われてしまっただろうな……。
でも。
それでも。
自分は好き。
圭が好き。
今すぐにでも圭のところに飛んでいきたい。
胸が苦しくて、涙が出そうになる。
圭に会いたい。
圭に触れたいのに……。
うつむいてじっとしていると、車が停止する。
『つきましたけど……』
顔を上げると、何度か見たので、なじんできた視界が見えた。
そっと見上げる。
石造りの建物。
ヨーロッパのアパートだ。
もう見飽きるくら見た。
ここに愛しい人が住んでいるのかと思うと、足を運ばずにはいられない。
蒼は知っていた。
圭がヨーロッパを拠点に意欲的に活動していることを。
自分がこっそり回した仕事は断ってくることも。
羽根田の仕事はしたくないのだろう。
圭らしいことだ。
圭についてはいろいろ調べてあり、彼の住んでいる場所も知っている。
会いたいけど会えないって辛いことだ。
物理的に会えないよりは、心理的に会えないというところだろう。
いつもと同じだ。
勝手に飛び出したせいで、彼の心がわからずに気まずい思いしかない。
それに会ってどうする?
こんなばたばたした毎日で、圭との時間はない。
しかもあんな別れ方。
今さら、謝っても謝り切れないくらい失礼なことばかりしてきた。
羽根田との約束もある。
『圭くんとはもう会わない。いいね?』
どうして章はそんなことを言うのかわからない。
羽根田の家に来たからって、昔の人との付き合いまで断ち切る必要はなかった。
母親たちにもあれ以来、連絡もしていない状況だ。
羽根田の家に行くとき引き留められなかったから、自分ですねているだけだ。
羽根田はそこまで制限してはいないのに。
なんとなく、気まずい。
なんとなく、気まずいのだ。
ただそれだけ。
自分から姿を消しているだけじゃないか。
いろいろな人に合いたい。
だけど、一番に会いたいのは圭なのだ。
タブレット越しの圭では、思いが募るばかりだ。
圭から姿を隠す理由もわからないのに、いいなりになっている自分も嫌気がした。
お目当ての窓でちらちら影が動くのが見える。
けだもだろう。
蒼は自嘲し、『行ってください』とだけ声を上げた。
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