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103.それぞれのこと4
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圭はヴァイオリンを片手にアパートに帰還した。
子供の指導は楽しい。
途中で、面倒な電話が入ったせいで、気持ちが動かされているが。
だけど。
ちょっと嬉しい気持ちもある。
ショルとやるのは嫌いではない。
自分の満足いく音楽が作れるからだ。
なかなか機会もないから。
たまにそういう機会があると楽しみなのだ。
素直になって、「一緒にやろう」ってなれば、もっと共演の回数は増えるのだろうに……。
お互い素直ではないから仕方がない。
足早に自宅へ向かう途中。
場に似合わないスピードで走り去る高級車を見た。
日本車か。
最近では珍しくもない光景だが、少し気になって車を見送った。
「ただいま」
アパートに入ると、けだもが窓辺でうろうろしていた。
「ごめん、ごめん。おなかすいたの?」
圭は少し遅くなったのでけだもが落ち着かなくなっていると思った。
「にゃッ!」
けだもは鋭く鳴いて、窓辺に座る。
「どうしたの?」
「にゃー」
目を細めてなにか訴えているみたいだけど。
到底、圭には理解できそうにない。
圭はけだもの頭を撫でて、無言で抱きしめる。
「ごめんな。おれ。なに言ってるかさっぱりわからなくて」
「にゅー……」
けだもは教えたかっただけ。
窓の下に。
窓の下に。
さっきまで蒼がいたってこと。
車から見えた顔は蒼だったよ!
圭に会いに来たのだ。
蒼は自分たちのこと。
忘れていないよ。
圭。
けだもはじっと圭のぬくもりを感じていた。
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