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104.夏3
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蒼も圭もいなくなって寂しく思っているのは星音堂だけではなかった。
夜。
古ぼけた看板に明かりが灯る。
いつもの常連たちが一人、また一人と顔を出す。
それを見ながら、もしかしたら、蒼や圭が顔を出すのではないかと野木は期待していた。
だけど、それをして数か月も経過するが、一向に彼が現れる様子もなく……。
「しけた顔しているね」
桜がじろっと野木を見る。
「桜」
「そういう顔しない」
「でもさ」
「あたしまで同じ気持ちになるだろう?」
ぶっきらぼうだし、態度もいまいちな桜だけど。
二人のことを心配しているのだろう。
圭の活躍はあちこちから聞こえてくるが。
蒼のことはちっともだ。
生きているのかもわからない。
けだももどうしているだろうか?
「あいつ。どうしちゃったんだろうね」
「この広い世界だよ?自分の意思で姿を消したやつを探し出すなんて、並大抵のことじゃないよ」
「だよね」
視線を外に向ける。
クーラーの効いた部屋だけど。
中は人の熱気で暑い。
今晩も熱帯夜かな?
野木がそう思っていると、ふと扉が開く。
「いらっしゃ……」
そこで言葉を切る。
そこには、圭が立っていたからだ。
「お久しぶりですー」
桜もびっくりして顔を上げる。
「なんだい。急に」
「急にもなにも。久しぶりに帰ってきたんですから。歓迎してくださいよ」
「ばかじゃないの。音沙汰なしなんて、随分偉くなったものよね」
桜は悪態をついているけど、にやにやしている。
待っていたのだろう。
「いろいろ、相談したいことが山ほどあるんですよー」
圭は桜に泣きつく。
「あっちは厳しいですよ」
「それはそうでしょう?本場なんだから」
彼女は笑う。
「それより、話はあとでしょう?まず聞かせな。あんたの音」
言葉よりも聞けばわかるってことか。
野木はにやにやして圭と桜を見る。
なんだか、久しぶりにほっとした。
圭が戻ってきた。
日本に。
そして、「にゃー」。
足元にはケースに入れられたけだも。
反対にはキャリーケース。
自宅による前にここに来たらしい。
桜は苦笑する。
どうせ、自宅に帰ったって待っている人はいない……ってことか。
「おー!けだも!!」
乃野木嬉しそうにけだもを抱き上げる。
「にゃー♪」
けだもも、一人前に飛行機に乗って帰ってきたらしい。
野木はうれしい気持ちになった。
その間に、圭の演奏が始まる。
他の客たちも顔を上げる。
「おー。久しぶりだな。兄ちゃん」
「あっちに行っていたって本当かよ?」
「日本まで話が聞こえてこねーぞ?」
悪態をつきつつも、圭の演奏を楽しみにしている客。
「本当に柄が悪いんだから。仕方ねーな」
野木は苦笑して、圭の演奏に耳を傾けた。
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