アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
104.夏4
-
桜の店を出たのは、東の空が明るくなってきた頃だった。
久しぶりで、調子に乗ってしまった。
だけど。
あっちで弾くのとは違って、心底楽しい時間だった。
桜には、ああだこだと文句を言われて、いつの間にかレッスンを付けられたが。
それはそれで楽しい時間。
自分が、満たされていたころを思い出すことができて、嬉しいような、懐かしいような、悲しいような、複雑な気分になった。
だけど、心地いいのは、みんなが圭を歓迎してくれているという安心感なのだろうか?
けだもはすっかりオネムのところをゲージに入れて、久しぶりの我が家へ戻ったのは5時を過ぎていたころだった。
「ただいま……」
軋む玄関を開ける。
中は埃っぽい臭いがした。
人がいない証拠。
圭も数か月は開けていた。
その間は、管理会社に管理をお願いしている。
いくらお金がかかってもいいから、突然帰ってきても住める状態で維持してほしい。
そう、お願いしている。
蒼がいつ帰ってくるかもわからないし。
だけど。
この様子だと、蒼はここにきていないことは明白だった。
少しは期待していた。
なにか忘れ物とか取りに来たかもしれない。
それか。
もしかしたら、本当に戻っているのかも。
そんな期待。
だけど。
期待外れ。
彼が戻っていたら、星野たちが気づくはずだし、そんな連絡も一つもない。
星野も、いろいろ情報を収集してくれているようだけど、蒼の影も形もないと言っていた。
現地にいる自分だってそうなのだ。
日本に帰ってきているのかどうかなんてわからない。
けだもは、久しぶりの我が家の香りに気付き、飛び起きて、跳ねていく。
猫は家につくというのに、連れまわして悪いことをしているのは重々承知だ。
だけど。
一人でおいておくわけにもいかないし。
誰かに頼むわけにもいかない。
圭だって、一人になってしまうではないか。
三人(?)で住んでいたんだもの。
みんながバラバラになるなんて悲しすぎる。
大きくため息を吐いて、圭は我が家に足を踏み入れた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
799 / 869