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105.恋を患う2
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「あっちはなかなかいいですけど。やっぱり日本がいいですね」
そして続ける。
「順調にやらせてもらっています。本場ですから。日本のようにはいかないですけど。地道に仕事はもらっているし。そこそこ忙しいです」
これで質問には答えたかな?
圭は一同を見る。
と、ふと、見かけない顔に動きを止める。
一瞬。
小さくて。
蒼かと思った。
「あ、ああ。新人の篠崎だ。ほれ。前も言ったかもしれないけど、この星音堂から生まれたような天才ヴァイオリニストの関口だ」
篠崎?
圭はほっとする。
蒼かと思った。
本気で。
見間違うなんて。
どうかしている。
そして、ふと反射的に三浦を見てしまう。
彼が蒼を好きなことは重々知っているし、蒼と重なる彼を、三浦はどんな気持ちで側に置いているのかと思ったから。
三浦は、そんな圭の気持ちを知っているかのように、居心地の悪そうな顔をしていた。
彼も気にしているのか。
そう理解した。
「わー!!お、おれ。ファンなんです!」
圭と三浦のやり取りなんかお構いなしに、篠崎は圭の手を握ってくる。
「あ、握手してください!」
「っていうか。もうしてますけど……」
圭の言葉に、彼は、はっとして手を放す。
「す、すみません!失礼しました!!」
「若いね」
「まだ22だそうだ」
自分にもこんな時あったな。
そうだった。
蒼と出会ったのも。
久しぶりの星音堂で……。
見たことのない職員だなって思って。
「おいおい。篠崎が可愛いからって見とれているなよ」
高田の突っ込みにはっとする。
「いや。そういう訳では……」
はっとして一同を見渡すと、彼らはどこかしら真剣な顔で圭を見ていた。
聴きたいことは分かっている。
「すみません。まだ、なにも。探しているんですけど」
彼の返答で、一同はがっかりした顔をした。
「だよな」
「わかっていたら連絡よこすよな」
「本当にあっちに行っているのかな?」
「日本にいるのかも知れないしな」
「本当。心配ばっかりかけやがって」
それぞれが口にするのは蒼のこと。
心配してくれているのだ。
姿を消したっていいけど、所在くらい。
教えていったらいいのに。
心配なんだから。
そういう気持ちが伝わってくる。
「すみません。あいつ。きっと、おれには知られたくないって思っているんだと思うんです。だから、みなさんにもあんな突然……」
圭は申し訳なく思った。
しかし。
星野は圭の頭をごんとこぶしで軽く叩く。
「あいつは本当に辛いと逃げ出す傾向がある。おれたちからも逃げているんだ。弱虫な癖に。でっかいことしてくれる」
圭の責任だって。
そうさせないように。
星野は優しい。
なんだか訳が分からないけど。
篠崎は黙っていた。
その前で三浦も黙り込んでいる。
それをじっと見ていた。
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