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105.恋を患う7
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動揺していた。
星野に気付かれると思っていなかったからだ。
こんな新人の自分の心の内なんか、誰も気に留めないと思っていたのに。
そう思っていたのに。
動揺していた。
自動ドアから中に入って、事務所に向かおうとすると、三浦と鉢合わせになった。
「なんだ。篠崎。探したんだから」
「え?」
「一緒にポスターの配分やるって約束だろう?」
「そ、そうでした。すみません」
彼はよそよそしく、視線をそらす。
「篠崎?」
「お、おれ。ちょっとトイレ行ってきていいですか?」
「いいけど。会議室にいるからな」
「はい」
三浦は首を傾げて姿を消す。
それを見送って、篠崎は深呼吸をした。
誰にも言ってないこと。
誰にも言えないこと。
まさか。
まさか、自分が。
三浦のことを好きだなんて!
気付いていなかった。
ついこの前まで。
あの。
関口という男が現れるまで。
三浦は尊敬している。
仕事もできるし。
おしゃれだし。
優しいし。
憧れだと思っていたのに。
関口がやってきて、いなくなった職員の話をしたときの三浦の顔やそぶり、雰囲気を見て、すっごくショックを受けた。
三浦が、その人のことを大切に思っているんだって知ってしまった時。
すごくショックだったのだ。
なんでなのか、すぐには分からなかった。
だけど、ずっと、ずっと考えて、やっと答えが出たのだ。
自分は三浦のことが好きだってこと。
おかしいことだってわかっている。
だけど。
やっぱり、自分は三浦のことを大切だって思っているのだ。
彼が他の人への気持ちに苦しんでいる姿を見て、自分には勝ち目がないという敗北感もあるが、それ以上に、辛く思えたのだ。
自分の好きな人が苦しんでいる姿を見たくないのが心情だろう。
その人はどんな人なんだろう?
どうしてみんなに黙っていなくなったりしたのだろう?
自分だったら、そんなことできないし、したくもない。
お世話になった人たちに黙って。
仲が良かった人にも黙って。
消えてしまうなんて信じられないと思った。
自分の気持ちを自覚したことで、心の中は動揺しまくりだった。
その上、星野にも指摘されてしまって、どうしたらいいのか全く分からなかった。
こんなことだったら、自分の気持ちに気付かなかったほうが良かったのだ。
最低だ。
最悪。
せっかく、大好きな星音堂に就職できたのに。
毎日が楽しくないだなんて。
本当に最悪以外のなにものでもない。
どうしたらいいのだろう?
どうしようもないよね?
篠崎はトイレの手洗い場で大きくため息を吐く。
星野は仕方がない。
星野以外の人には感づかれてはいけない。
特に三浦には……だ。
いつもの自分に戻ろう。
篠崎は顔を洗って、ほっぺたを両手でたたく。
「しっかりしろよ。おれ……」
鏡に映った自分は、本当に情けない顔で。
なんだか、がっかりした気分になっていた。
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