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105.恋を患う8
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日本にいる間。
関口は東京の実家にも戻っていた。
朱里も不在なので、戻ったところで誰もいない可能性も高いが、なんとなく足を運んだのだ。
けだもを連れ、中に入っていくと、珍しく圭一郎とかおりが在宅していた。
「あら!圭!!」
かおりは嬉しそうである。
「母さん。父さんもいるの?」
「そうよー。病気以来、圭ちゃんも無理は禁物って、ゆったりペースで仕事しているし。基本的には日本にいることが多いの」
「そうなんだ」
玄関で立ち話をしていると、中から騒がしい声が響いてくる。
「今日は有田さんも来ているから。賑やかよ」
大きくため息を吐く。
けだもをケースから取り出すと、彼はくんくんあちこちの匂いを嗅ぎだした。
「あら!けだもちゃんね」
かおりは嬉しそうだ。
「おれがおいていったトイレあるよね?」
「さあ?」
家のことをこの人に聞いても分からないのだった。
圭は大きくため息を吐いて、いつも身の回りのことをしてくれるお手伝いさんを探す。
彼女は台所でお茶の支度をしていた。
彼女のけだものことをお願いして、それからリビングに顔を出すと、圭一郎と有田が仕事の話をしているところだった。
「珍しい。圭じゃないか!」
圭一郎は嬉しそうに顔を上げる。
有田も立ち上がって挨拶をしてきた。
「圭くんの噂は耳にしていますよ」
「変な噂じゃないの?」
「そんな」
「そうそう。奥さんに逃げられた腰抜けヴァイオリニストって噂だろう?」
圭一郎はにやにやしている。
「そういうことを言うか?普通……」
子供が気にしていることをずけずけというのがこの男だ。
人の心の傷に塩を塗りこむような男。
帰ってくるんじゃなかったと圭は後悔する。
「マエストロ。そういうことを言うもんじゃありませんよ」
有田に窘められているようでは始末に悪い。
「蒼。ヨーロッパにいるそうじゃないか」
ふと圭一郎がいう。
「へ?」
「羽根田の責任者をやっているそうだな」
「!?」
圭はびっくりして有田を見る。
彼は頷いて、そして、手持ち鞄から書類を取り出した。
「すみません。でしゃばったマネをしましたけど。自分もやっぱり蒼さんは圭くんの側のほうがいいと思っている口ですから。勝手に調べさせてもらいました」
有田からもらった書類には、羽根田重工の内部情報の内容が乗っていた。
蒼はヨーロッパの文化部のチーフをやっているらしかった。
主にドイツに居住し、そこからあちこちに顔を出していると書類には乗っていた。
そして。
最後に、小さいながらも、彼の写真が掲載されていた。
「!!!」
今の蒼?
プリマドンナの後ろに小さく。
だけど、はっきりと。
蒼が映っている。
元気そう。
変わりない?
痩せたかな?
日付は、つい一週間ほど前のものだった。
「すみません。もう少し時間をかければ、なにかと情報が手に入ると思いますが。今のところ。これだけでした」
圭は書類を食い入るように見て、それから、圭一郎と有田を見る。
「うちのマネージャーは優秀だろう?」
圭一郎はにやにやしている。
「父さん……」
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