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106.憂鬱な恋1
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篠崎の憂鬱は輪をかけてひどくなっていくようだった。
文化祭の準備と並行してそれはひどくなっていく感じなのだ。
今年の演目は「不思議の国のアリス」。
オリジナルシナリオだ。
シナリオを執筆してくれたのは、地元出身の小説家である。
最近、彼の小説が映画になるということで、話題になっている作家だった。
その彼のシナリオを題材に、神崎が作曲をしてくれた、またまたのオリジナルだ。
ここ数年、続いているこのミュージカルの企画。
神崎が、出版会社と契約して、楽譜として出版されることになったとのことだった。
そうなると、ここで公演しているのは初演ということになる。
恐れ多いことだ。
自分たちが歌ったり、踊ったりしているこれを、もっとうまくやるプロが出てくるのだから。
なんだか恥ずかしい限りだと思う。
それに、知る人ぞ知るで、神崎のファンは毎年、楽しみにこの文化祭に足を運んでいる様子だ。
アンケートを取ると、明らかに県外の人も多い。
恐るべし。
そして、今回は、梅沢高校の合唱部と、市民合唱団にも協力を得て、代々的に行うとのことだった。
去年は、関口圭一郎が来たりと、盛り上がったせいで、後には引けないのだ。
それに、地元の団体を使うと、集客にもつながる。
水野谷も頭が痛いとのことだった。
「篠崎、ここはどう歌うんだよ?」
ぼーっとしていたせいで、どこまで進んだのかちっともわからなかった。
「あ、す、すみません。どこでしたっけ?」
「どこじゃないよ。時間もないんだから。しっかりしてよー」
吉田はぶうぶうと声を上げる。
主役なんて初めてだから。
吉田は本当に焦っている様子だ。
「わかりました。やりましょう」
吉田につきっきりで指導をしている篠崎を見て、氏家たちは肩をすくめる。
「篠崎は、自分の分は大丈夫なのか?」
「あいつは、楽譜を読むのは朝飯前ですから。大丈夫ですよ」
尾形はうんうんと頷く。
「でも、なんか元気ないよな。あいつ」
星野はそういうと、三浦を見る。
「おい。なんか知っているのか?あいつのこと」
三浦は見ていた楽譜から顔を上げる。
「え?いや。おれは……」
「お前、教育担当なんだから。メンタル面もみてやれよ」
高田は三浦に言う。
「でも。プライベートのことかもしれないじゃないっすか」
「そうだけど」
「いまどきの若者はナイーブなんだから。しっかりな」
星野たちに任されて、三浦はため息を吐く。
本当に難しいと思う。
こういう立場。
よく自分もわがまま放題していたけど。
蒼は面倒を見てくれたなって思った。
三浦はいろいろ考えた挙句、休憩になって一人になった篠崎のところに行く。
「大丈夫か?」
三浦の声に、彼は焦っている様子でばたばたしていた。
そして、「大丈夫です」とだけ小さい声で答えた。
「今晩、空いている?」
「え?」
「なんだか元気ないし。付き合えって」
「……はい」
三浦を見送って篠崎はため息を吐いた。
彼と二人になるのは苦手だ。
ドキドキしちゃうから。
意識したらアウトだ。
今晩が憂鬱だった。
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