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106.憂鬱な恋4
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「三浦さん。三浦さんが、おれに自分の気持ちをきちんと言葉にしろって言うなら、自分もそうすべきじゃないですか?どうして辛そうな顔をして押し黙っているんです?見ているこっちが辛いです」
「辛いって。お前に心配される筋合いはないんだ……」
三浦は弱ってしまっている。
語尾が消えかかりそうだ。
こんなことになるはずじゃなかったのに。
酒の力も入っているせいで、興奮が止められない。
自分も辛いから。
三浦の気持ち。
分かっているから。
人への思いを秘めて過ごすって本当に辛いこと。
心が張り裂けてしまいそうだ。
「おれは三浦さんが好きなんです」
篠崎は三浦に伝える。
言葉は選べない。
だって、どう話していいのかわからないのだもの。
単刀直入にいうしかない。
「は!?」
三浦はびっくりする。
「迷惑は百も承知です。でも、おれは三浦さんのことが好きみたいで。辛そうにしている三浦さんを見るのが辛くって。でも、本当に好きでいいのかどうかも迷っていて。自信がなくって。みんなと呑気に笑っていられる場合じゃなくって……」
篠崎は取り留めもなく、自分の気持ちを吐露した。
三浦は驚いて言葉も出ない。
おとなしくて。
黙っていて。
なにを考えているかわからない彼が、自分を好きで。
心配してくれていて。
だけど、そんな自分には自信がなくて。
なんだか自分に重なる部分があって、言葉を失った。
蒼が好きで。
でも、本当に好きでいいのかわからなくって。
自分の気持ちが本当なのかもわからなくって。
自分に自信が持てなくて。
告白しても玉砕することが目に見えているから、自分の気持ちを蒼に打ち明けられることもできなくって。
そんなことをしていたら、蒼がいなくなってしまって。
自分の気持ちに踏ん切りがつかないまま、こうして宙ぶらりんで過ごしている自分。
そんな中途半端な自分が嫌いで仕方がないのに。
こんな側に、自分と同じ思いの人間がいたなんて。
しかも、自分のことが好き?
まったく気が付かなかった。
言語で表現しろなんてよく言ったものだ。
自分だって表現できていなくて後悔している癖に。
偉そうに!
三浦はぐるぐるしてきて混乱してきた。
混乱してきたから。
もう、打ち切りたい。
逃げ出したい衝動に駆られた。
「お前がおれを好きだってなんだって関係ない!勝手に辛くなられたって困るよ!おれは知らない。おれの問題じゃないじゃないか」
三浦はそういうと、万札を数枚、机に叩きつけて席を立つ。
「三浦さん!?」
「帰る!」
尻尾を巻いて逃げる犬みたい。
情けない。
情けなさすぎる。
三浦は自分に愛想が尽きてしまっていた。
消えてしまいたいのはおれのほうだ……と。
だけど、取り残された篠崎はいたたまれない。
逃げられると思わなかった。
いや、予想できなかったことではない。
なにせ、自分の好きな人からも逃げている男だ。
篠崎の気持ちを知ったら。
きっと、避けられてしまう。
そうどこかで思っていたのに。
本気だったらしい。
自分の気持ち。
人に打ち明けるのが苦手な癖に。
三浦には伝えずにはいられなかったようだ。
「はー!」
大きくため息を吐いて、椅子に座りなおす。
周囲の客がじろじろを見ていたが、酒の上でのことだ。
大して気に留める人もいなく。
それぞれの輪に戻っていく。
篠崎は取り残されて、一人酒をあおっていた。
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