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107.憂鬱な恋の行方2
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平日の21時の繁華街は寂しいものである。
田舎の町ともなると、外を歩く人も少ない。
年々、人は減っているように見受けられた。
水野谷の命令で、吉田が必死に予約を入れていた店は居酒屋風だが、落ち着いた感じの店だった。
チェーン店ではないようで、店主の趣味がいたるところに反映されている。
外観は、焼竹を壁面にあしらい、なんとなく和風な感じ。
中も、若者が少ないようで、酒の場だというのに、なんとなく静かな雰囲気になっている。
篠崎は着物姿の女性に案内されて、個室に通された。
中に入ると、そこには三浦が座っていた。
彼は一人で暇そうにしていたようで、携帯をいじっていたところだった。
目に鮮やかな麻木色の座布団が妙に印象深くて、見入ってしまう。
いや。
きっと、そこにいた三浦に視線をやらないようにと意識的にそうしていたのかもしれない。
「お、お疲れさまです」
挨拶をすると、三浦も篠崎を認め、少し間をおいてから「お疲れさま」といった。
それから、言葉をつづける。
「尾形さんと星野さんは遅番だから、遅れるって。氏家さんも自宅に帰ってから奥さんに送ってもらうから送れるって」
「そ、そうですか」
目の前に座るのもなんで。
三浦とはずれて、向かい側に座る。
彼は携帯で、みんなと連絡を取っていらしい。
「水野谷課長も、本庁の会議がおしていて、遅れるって」
「そうなんですね」
そうとしか言いようがない。
篠崎は視線を伏せる。
「それから」
まだあるのか。
「高田さんも、奥さんに飲み会になったって言ったら怒られて喧嘩になっちゃったんだって。だから歩いてくるみたいで、遅れるって」
結局、みんな遅れるんじゃない。
そんなに忙しいなら、集まらなくてもいいのに、と思いつつ、篠崎は、目の前にいる三浦を見る。
時間通りに席についているのは二人だけだ。
「あ、でも。吉田さんが来ますね」
「あ~……吉田さんも、なんか家庭の事情って。メール来てるっけ」
「家庭の事情って、なんか複雑なんですか?」
「さあ?吉田さん、結婚もしてないのに。実家で揉めているのかな?」
「あの、わざわざ飲み会しなくてもいいんじゃないですか?」
「いつもそうなんだよ。結局、所帯もっていないメンバーが先に集まってなんだかんだしていると、みんな集まるから大丈夫だって」
「そ、そうなんですね」
篠崎は知らない。
二人で始めていてって言われても、始めようもない。
なんだか、わざとこういうシチュエーションになっているようで嫌になってきた。
篠崎はメニューを見てごまかす。
「み、三浦さんは、なにがいいですかね~?」
最後のほうは声になっていない。
独り言のような声。
だけど……。
「篠崎」
ふと三浦がこっちを見ていた。
珍しく真剣な表情の三浦に、なんだかどっきりしていしまう。
どうしていいのかわからず、メニューに隠れていた彼だが、おずおずと顔を出す。
「はい……」
「あのさ。この前の件だけど」
「はい」
「あの。おれ……」
三浦が、息を吐いてなにかを話そうとした瞬間。
「悪い、悪いー。遅れちゃった~」
そこで脳天気な声が響く。
吉田が顔を出したのだ。
「よ、吉田さん」
「なんだ。始めていてよかったのに」
彼はにっこり笑顔を見せると、三浦の横に座る。
「もう遅い時間からだし。始めよう、始めよう」
「は、はい」
三浦と篠崎は気まずそうに顔を見合わせてから、メニューに視線を落とした。
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