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107.憂鬱な恋の行方4
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気分がいい夜だった。
みんな、ほっこりした気持ちで帰途に就く。
明日も仕事だ。
時間は深夜を回っていたが、なんだか気分がいいままだった。
店を出て、そこで解散になった。
「お疲れ」
「また明日」
「明日は寝坊するなよ」
各々が勝手なことを言いながらそれぞれの方向に散らばっていく。
久しぶりに酔ったようだ。
篠崎はくらくらする額に手を当てて、それから歩き出す。
どうやって帰ろうか?
歩いて帰れる?
なんだか頭が働かない。
ふらふらと歩きだした瞬間。
後ろから声がかかる。
「篠崎」
三浦だった。
一瞬、鼓動が早くなる。
酒のせいではない。
酔っているところに、さらに緊張感が走って、余計にドキドキした。
「一緒にいいか?」
そっと振り返ると、三浦はさっきと同じ。
真面目な顔で立っていた。
「いいですけど。別に。でも、方向が……」
体よく断ろうとしても無駄なのだろうな。
そんなことはわかっているくせに。
抵抗したくなる。
「大丈夫。少し。話。さっきの続き」
さっきの。
吉田に遮られた言葉を思い出す。
「いや。あの。……はい」
断る理由を探したが、結局はなにも思いつかなかった。
篠崎はあきらめる。
今晩は、少し自分に自信を持つことができた日ではないか。
だったら。
三浦と向き合ってもいいのかもしれないと思ったのだ。
落ち着いて。
深呼吸をして三浦の言葉に耳を傾ける。
どんな言葉があろうと、今なら大丈夫。
そんな気がしたからだ。
「この前はおれのことが好きって言ってくれて本当、なんというか。ありがとな」
篠崎は顔を赤くして目を見張る。
はっきり言われると、なんだか恥ずかしい。
三浦は続ける。
「篠崎って自分のことをあんまり話さない子だから。篠崎が、おれへの気持ちを口にしてくれたこと。本当にびっくりして。すぐには理解できず、受け入れることができなかった」
それは仕方のないことだ。
自分だってびっくりしたことなんだから。
「だけど、じっくり考えて。本当にすごいって思った。おれなんか、大好きだった人に自分の気持ちを伝えることもできず、うじうじしていたら、その人はどこかに行ってしまった。自分の気持ちをどうしていいのかわからずに持て余していたのに。それなのに。篠崎はすごいと思った。おれと同じ人間だと思っていたことが、失礼なことだって思った」
「そんな。おれは……」
本当だったら、自分の気持ちを伝えるなんて、本当にできないのに。
なぜか。
口を出てしまったから。
あれ?
なんか。
今までの自分とは違うのかな?
今日だってそうだし。
なんか。
変わったのかもしれない。
星音堂に来て。
自分は自分の気持ちを人に伝えられないと思い込んでいるだけなのか?
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