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108.会いたい6
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『気持ちは嬉しいけど。ごめん。おれは、ほら』
蒼はそういって、自分の左手薬指の指輪を見せる。
『蒼は奥さんいるの?』
『奥さんっていうか』
『じゃあなに?旦那さん?』
『おれ、男だよ?どうしてそういうことになるのかな?』
迷いもなく、そういう発想になるのだからおかしい。
蒼は更に苦笑する。
『だ、だって。蒼はかわいいから。なんだか蒼に女性がついているのは想像しがたい。それとも、あのメガネの怖い人が、奥さんじゃないよね』
奥川のことか。
彼は彼女のことを思い出したのか、肩を竦めた。
それを見て、蒼も同じ気持ちになる。
彼女は本当に怖いもの。
『そうだよ。おれの大事な人は旦那さん』
やっぱり、いるんだね。
セバスティアンは蒼の言葉に息を飲んだ。
蒼はいつもふさぎ込んでいた。
出会った時からそうだったから、もともとそういう人なのかと思っていた。
だけど。
時々見せる笑顔は素敵で。
いつの間にか、彼のことを好きになっていた。
最初から嫌いではなかったけど。
蒼のことをもっと知りたいと思っていた。
こうして触れてみたいと思っていた。
だけど、もっと知りたいのは、蒼の心のこと。
日本人だから暗い顔をしているのだろうか?
いつも疲れた顔をしていた。
あまり笑顔も見せず表情も変わらない。
そういう男なのだろうか?
いろいろ考えていたけど。
今の蒼の笑顔を見ると、きっとこれが本当に蒼なのだろうと理解した。
『蒼はどうしてそんなに大事な人がいるのに。いつも浮かない顔をしているの?幸せじゃないの?』
核心を突く話題に、蒼の表情を曇る。
『幸せ、じゃないよ』
『その人が蒼を困らせているの?それなら、おれ、その人を許さないよ』
『違うんだ。違うの。これは……』
大人の事情。
そう。
大人の事情だ。
蒼は言葉に詰まる。
圭が蒼を困らせているのではない。
自分が自分を追い込んでいるのではないか。
しかし、セバスティアンはそういうことまで察知できるほど大人ではない。
蒼をぎゅっと抱きしめる。
『蒼に悲しい顔をさせるなんて最低だ。おれは許さないよ』
『だから。違うんだってば……』
説明すれば長くなるし。
彼に言ってもどうこうなるわけでもないし。
どうしようもない現実なのだし。
ああ。
圭に会いたい。
『おれ、圭に会いたいよ……』
彼と別れてから封印していた涙が零れ落ちた。
本当は泣きわめきたい。
半狂乱になって、圭に会いたいと叫びたい。
ずっと押し殺していた気持ちが、涙と共に堰を切ったように溢れ出す。
天井に描かれている模様がぼんやりして見えないくらい、涙で溢れている。
泣き出した蒼を見て、セバスティアンは戸惑った顔をしたが、すぐに抱きしめてくれた。
こんなことしてはいけないのだろうけど。
今は誰かにすがっていたかった。
蒼は彼の背中に手を回す。
それを確認してから、複雑な表情でセバスティアンは蒼を抱きしめ続けた。
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